0. 「魔のセキュリティチェックシート」を丸投げするのはいかがなものか(そう思い続けて幾数年…)
「申し訳ない、このセキュリティチェックシート、明日までに埋めてもらえる?」
営業担当にとって、もっともテンションが下がる瞬間。
それは、受注直前のタイミングで、顧客から「100項目あるExcel(セキュリティチェックシート)」を送られてきた時です。
「パスワードポリシーは?」「データの保管場所は?」「インシデント対応フローは?」
内容は専門的で、自分では書ききれない。
かといって、忙しい情報システム部(情シス)に「明日まで」なんて投げたら、嫌な顔をされるのは確実。
というか、「これ、半年前のA社の時も同じこと書いた気がする……」
そんな徒労感に、終止符を打ちましょう。
今回は、NotebookLMを使って、過去の回答資産から「ドラフト(下書き)」を一瞬で作成する方法を解説します。
いきなり自社の重要データを読み込ませるのは抵抗があると思いますので、今回は検証用の「ダミーデータ」を用意しました。
まずはこれで、AIの精度の高さを体感してみてください。
1. なぜ「毎回ゼロから」書いてしまうのか
セキュリティチェックシートの回答業務が辛い理由は、情報が散らばっているからです。
- 「SLA(サービス品質保証)」のPDFにある情報
- 「ホワイトペーパー」にある情報
- 「半年前のB社向けチェックシート(Excel)」にある情報
これらを探し回って、コピペして、文言を整える。
この「検索と要約」の作業に、人間が頭を使う必要はありません。
「過去にどう答えたか」というカンニングペーパー(知識ベース)さえあれば、生成AIがもっとも得意とする領域だからです。
2. 実践:ダミーデータで試してみよう
では、実際にやってみましょう。
あなたは架空のクラウドサービス企業「株式会社ダミーダミー」の営業担当です。
以下の「セキュリティ仕様書(ソース)」をコピーして、テキストファイル(またはGoogle ドキュメント)として保存し、NotebookLMにアップロードしてください。
📂 素材:セキュリティ仕様書・過去回答集(ダミー)
【株式会社ダミーダミー セキュリティ仕様書 Ver2.0】
1. データセンターおよびバックアップ体制
・当社のサービス「DummyCloud」は、AWS(Amazon Web Services)の東京リージョンを利用して運用されています。
・データのバックアップは、システムにより日次(毎日深夜2:00)で自動取得され、過去30世代分(30日分)を保管しています。
・災害対策(DR)として、東京リージョンのデータとは物理的に離れた「大阪リージョン」への遠隔地バックアップを同期的に実施しており、大規模災害時の事業継続性を担保しています。
2. サービス稼働率(SLA)
・利用規約に基づく月間稼働率の目標値(SLA)は「99.9%以上」と定めています。
・実績として、過去1年間(2024年4月〜2025年3月)の平均稼働率は「99.98%」を達成しており、SLA基準を大きく上回って推移しています。
3. インシデント対応および連絡体制
・システム障害やセキュリティインシデントを検知した場合、サポートチームより「検知から30分以内」に第一報(一次回答)を行う体制をとっています。
・情報漏洩など、影響範囲が大きい「重大インシデント(レベル1)」と判断された場合は、CTO直轄の「緊急対策本部」が即座に設置され、顧客への状況報告を1時間おきに実施します。
4. 認証取得状況
・当社は情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格である「ISO/IEC 27001」認証を取得しています(認証登録番号:JQA-DUMMY123)。
3. 回答生成プロンプト:顧客からの「質問」に答えさせる
ソースを読み込ませたら、いよいよ顧客から送られてきた(という設定の)チェックシートの質問を投げつけます。
以下のプロンプトを入力してください。
📌 プロンプト
あなたは弊社のセキュリティ責任者です。
アップロードされた資料(過去の回答集や仕様書)に基づき、顧客から受け取った以下の質問に対する「回答案」を作成してください。
**質問リスト:**
1. 「貴社のバックアップ体制(頻度・世代管理・保管場所)について記述してください」
2. 「サービス稼働率の目標値と、過去1年間の実績を教えてください」
3. 「インシデント発生時の連絡体制と、一次回答までのSLAを教えてください」
**制約条件:**
* 顧客提出用なので、「だ・である」調のフォーマルな文章で回答してください。
* 「あり・なし」だけでなく、具体的な数値や拠点名(東京リージョン等)を含めること。
* ソースに情報がない場合は、適当に答えず「ソースに情報なし」と出力すること。
4. 出力結果:AIが作ったドラフト
NotebookLMは、アップロードされた仕様書の記述を検索・統合し、以下のような回答を生成します。
📊 出力例
1. 「貴社のバックアップ体制(頻度・世代管理・保管場所)について記述してください」
当社のサービス「DummyCloud」は、AWS(Amazon Web Services)の東京リージョンを利用して運用している。データのバックアップについては、システムにより毎日深夜2:00に日次で自動取得し、過去30世代分(30日分)を保管する運用である。また、災害対策(DR)として、東京リージョンとは物理的に離れた「大阪リージョン」への遠隔地バックアップを同期的に実施しており、大規模災害時の事業継続性を担保している。
2. 「サービス稼働率の目標値と、過去1年間の実績を教えてください」
利用規約に基づく月間稼働率の目標値(SLA)は「99.9%以上」と定めている。実績については、過去1年間(2024年4月〜2025年3月)の平均稼働率として「99.98%」を達成しており、SLA基準を上回って推移している。
3. 「インシデント発生時の連絡体制と、一次回答までのSLAを教えてください」
システム障害やセキュリティインシデントを検知した場合、サポートチームより「検知から30分以内」に第一報(一次回答)を行う体制をとっている。また、情報漏洩など影響範囲が大きい「重大インシデント(レベル1)」と判断された場合は、CTO直轄の「緊急対策本部」を即座に設置し、顧客への状況報告を1時間おきに実施する。

いかがでしょうか。
元のテキストから必要な数字(30世代、99.98%など)や固有名詞(大阪リージョン、CTO直轄など)を正確に拾い上げ、顧客への回答用の文章(だ・である調)に整形しています。
これをコピペしてスプレッドシートやExcelに貼れば、作業の8割は完了です。
ただし、AIの出力はあくまで「ドラフト」です。
数値や仕様が最新の状態と合っているか、必ず担当者の目で確認してから提出してください。
5. 情シスへの依頼が「丸投げ」から「レビュー」に変わる
ここが今回の最大のポイントです。
AIが作った回答があるだけで、情シスへの依頼チャットは劇的に変わります。
❌ これまでの依頼(丸投げ)
「情シス担当者様、お疲れ様です。C社からチェックシート来ました。明日までに埋めてください!急ぎです!(添付:空のExcel)」
→ 情シスの心境:「またかよ……こっちも忙しいんだよ……」
⭕ NotebookLM活用後の依頼(レビュー)
「情シス担当者様、お疲れ様です。C社からチェックシートが来ました。
過去の回答集を元に、一旦私の方でドラフトを埋めてみました。
内容に間違いがないか、あるいは最新のアップデートがないか、レビューだけお願いできないでしょうか?(添付:8割埋まったExcel)」
→ 情シスの心境:「えっ、ここまでやってくれたの? 確認だけなら10分で終わるわ。助かる!」
6. 自社データで運用する際の注意点
ダミーデータで感覚をつかんだら、次は自社の資料で試してみましょう。
以下のようなドキュメントをNotebookLMに読み込ませると、回答精度が上がります。
📂 用意するソース(例)
- 過去の回答済みチェックシート(ExcelやPDF):これが最強の教師データです
- セキュリティホワイトペーパー:自社のセキュリティ仕様がまとまった資料
- 利用規約 / SLA:稼働率保証やバックアップ体制などが書かれたもの
- ISMS(ISO27001)認証の概要資料:認証範囲などが書かれたもの
⚠️ 機密情報の取り扱いについて
セキュリティ関連資料には、社外秘の情報が含まれていることがあります。
NotebookLMにアップロードする前に、以下の点を確認してください。
- 社内の情報セキュリティポリシーで、クラウドサービスへのアップロードが許可されているか
- アップロードする資料の機密区分(社外秘、部外秘など)
- 不安な場合は、情シスや法務に一声かけてから始めると安心です
NotebookLMはGoogleアカウントに紐づいており、アップロードしたデータがAIの学習に使われることはないとされていますが、社内ルールの確認は怠らないようにしましょう。
7. まとめ:「書く」のではなく「確認する」へ
セキュリティチェックシートはなくなりません。
しかし、その負荷を「ゼロ」に近づけることはできます。
面倒な過去情報の検索や、文章の作成はNotebookLMに任せる。
人間(営業と情シス)は、「今の運用と合っているか」の最終チェック(承認)だけを行う。
「ゼロから書く」苦しみを捨てて、「AIに下書きさせて、人間が仕上げる」フローに変えていきましょう。
まずは手元のホワイトペーパーや、過去に回答したスプレッドシートやExcelを探すところから始めてみてください。
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