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営業とCSの「言った言わない」をなくす。NotebookLMで商談ログから「引き継ぎ書」を自動生成する技術

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0. 営業とCSの風物詩「言った言わない」論争に終止符を

「え、来週までに稼働させたいなんて聞いてませんよ?」
「営業さん、マニュアル作ってくれるって約束しましたよね?」

契約が取れて喜んだのも束の間。
キックオフミーティングで顧客が不穏な空気になる。
CS担当者が冷ややかな目で営業を見る。
営業は「言ったはずだけど……」と記憶を辿るが、証拠がない。

この「言った言わない論争」は、多くの組織で繰り返されている悲劇です。
原因は、CRM(顧客管理システム)の入力項目には収まりきらない「文脈(コンテキスト)」や「口約束」が引き継がれないことにあります。

今回は、NotebookLMを使って、受注までの商談ログやメール履歴から、顧客との約束や懸念点を網羅した引き継ぎ書(サクセスプラン)を自動生成する方法を解説します。
実際に使える「検証用ダミーデータ」も用意しましたので、コピペして試してみてください。

1. CRMの限界と、引き継ぎの「溝」が生まれる構造

SalesforceやHubSpotなどのCRMは優秀ですが、入力するのは人間です。
多忙な営業担当者は、「受注金額」や「契約日」は入れても、雑談の中で出た「担当者の性格」や「ふとした懸念」までは入力しきれません。

しかし、CSにとって本当に必要なのは、その「行間の情報」です。

ここで大事なのは、営業を責めても問題は解決しないということ。
営業には営業の事情があります。
月末の数字に追われる中、「とにかく受注を決めなければ」というプレッシャーの中で、つい踏み込んだ約束をしてしまうこともある。
それ自体は、顧客のために動いた結果でもあります。

問題は、その「踏み込んだ約束」が、次の走者であるCSにきちんと渡らない仕組みの方にあります。

2. NotebookLMを「橋渡し役」にする運用フロー

NotebookLMは、商談の文字起こしやメールを「そのまま」放り込むだけで、AIが文脈を読み解き、CSが必要な情報を抽出してくれます。

ただし、ツールを導入しただけでは運用は回りません。
「いつ・誰が・どうやって」を決めておくことが重要です。

推奨フロー

ステップタイミング担当内容
① 素材の格納受注確定時営業商談ログ・メール履歴を所定のドライブフォルダにまとめる
② 引き継ぎ書の生成キックオフの2〜3営業日前CSまたはマネージャーNotebookLMで引き継ぎ書ドラフトを生成
③ 営業への確認同上CS → 営業「この認識で合ってる?」と内容を確認
④ 修正・確定キックオフ前日までCS齟齬があれば修正し、正式版として保存

ポイント:なぜ「営業本人」ではなくCSが生成するのか

自分が交わした約束は、自分では客観視しにくいものです。
「これくらいは言ってないはず……」というバイアスがかかりやすい。

第三者であるCSやマネージャーがAI出力を見て「これ、本当に約束したの?」と確認するステップを挟むことで、認識のズレを早期に発見できます。

また、営業にとっても「自分で引き継ぎ書を書く」負担がなくなるメリットがあります。
素材をフォルダに入れるだけでいい。
これなら忙しい月末でも続けられますし、最悪「てへ、言っちゃったかも、ごめんなさい」で済みますよね(済ませましょう)。

3. 実践:ダミーデータで試してみよう

では、架空の案件を使って実際にやってみましょう。
以下の「商談議事録」と「メール履歴」をコピーして、テキストファイル(またはGoogleドキュメント)として保存し、NotebookLMにアップロードしてください。

📂 素材1:商談議事録(最終プレゼン)

案件名:株式会社ダミーダミー様 最終プレゼン
日時:2025年12月10日
参加者:
(顧客)田中部長、佐藤(実務担当)
(自社)山田(営業)

山田:
本日はご契約の方向で進めていただきありがとうございます。導入スケジュールについてですが、標準的には1ヶ月ほど準備期間をいただいております。

田中部長:
うーん、それだとちょっと遅いんだよね。来月の15日に全社総会があるから、そこで社長にお披露目したいんだよ。そこまでに動く状態にできない?

山田:
15日ですか……。かなりタイトですが、初期設定を弊社側で巻き取れば何とか間に合うかもしれません。社内のエンジニアと調整して、特急対応で進めるようにします。

佐藤:
部長、スケジュールもそうですが、現場のメンバーが使いこなせるか心配です。ITツールに不慣れな社員も多いので……。

山田:
ご安心ください。佐藤様のご負担を減らすためにも、現場向けの簡易マニュアル作成も、導入サポートの一環として私がやりますよ!

田中部長:
おっ、それは助かるな。山田さんがそこまでやってくれるなら安心だ。じゃあ、契約進めましょう。

📂 素材2:メール履歴(契約直後)

送信者:山田(営業)
宛先:佐藤様(株式会社ダミーダミー)
件名:御礼:ご契約手続きについて

佐藤様
お世話になっております。
本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございました。
田中部長にもよろしくお伝えください。

ご契約書を添付いたしますので、ご確認をお願いいたします。
総会(1/15)でのお披露目に間に合うよう、来週早々にキックオフを実施できればと思います。

なお、API連携の仕様書については、開発部門に確認中ですので、少々お待ちください。
引き続きよろしくお願いいたします。

見ての通り、営業の山田さんは「総会までに間に合わせる(特急対応)」「マニュアル作成を代行する」という、かなり重い約束(コミットメント)を口頭でしています。
これがCSに伝わっていなければ、キックオフで温度差が生まれる典型的なパターンです。

4. 引き継ぎ抽出プロンプト:CS視点で「約束」を洗い出す

素材をNotebookLMに入れたら、以下のプロンプトを入力してください。

📌 プロンプト

あなたは優秀なカスタマーサクセス(CS)の責任者です。
アップロードされた商談ログとメール履歴から、引き継ぎに必要な重要事項を抽出し、以下のフォーマットで「サクセスプラン(引き継ぎ書)」を作成してください。

特に、営業担当者が約束した可能性のある「コミットメント」や、トラブルの火種になりそうな「懸念点」は漏らさず抽出してください。

## CS引き継ぎシート

### 1. 顧客のゴール(Success Goal)
* なぜ導入するのか、いつまでにどうなりたいか

### 2. 営業コミットメント(要確認)
* 営業が口頭やメールで約束した対応事項
* 契約範囲外のサポートが含まれていないか確認

### 3. ステークホルダー分析(定性情報)
* キーマンの性格や要望
* 実務担当者の懸念やITリテラシー

### 4. 絶対遵守のスケジュール
* 顧客がマイルストーンに置いている日付とその理由

5. 出力結果:AIが見抜いた「約束」と「リスク」

NotebookLMは、議事録の会話とメールの文面を突き合わせ、以下のようなレポートを出力します。

📊 出力例

## CS引き継ぎシート

### 1. 顧客のゴール(Success Goal)
* 来月(1月)15日に開催される全社総会にて、社長へのお披露目を行い、システムが動く状態を見せること。
* これが必達目標となっており、田中部長のメンツがかかっている案件と推測されます。

### 2. 営業コミットメント(要確認)
営業(山田)が契約獲得のために踏み込んだ約束をしており、以下の3点はCSおよび開発リソースを圧迫する可能性が高いため、早急な事実確認と調整が必要です。

* **初期設定の代行(巻き取り):**
標準では1ヶ月かかる準備期間を短縮するため、「初期設定を弊社側で巻き取る」「社内エンジニアと調整して特急対応する」と約束しています。通常オンボーディングとは異なる工数が発生します。

* **現場向け簡易マニュアルの代理作成:**
現場担当者(佐藤様)の負担軽減として、「現場向けの簡易マニュアル作成も、導入サポートの一環として私がやる」と明言しています。これが有償オプション範囲なのか、営業個人のサービスなのかが曖昧ですが、CSに期待値が転嫁されるリスクがあります。

* **API連携の実装:**
メールにて「API連携の仕様書については、開発部門に確認中」とあり、API連携が前提の契約となっている可能性があります。1月15日の稼働にAPI連携が必須要件の場合、技術的なスケジュールリスクが極めて高い状態です。

### 3. ステークホルダー分析(定性情報)
決裁権者と実務担当者の間で、導入に対する温度感と懸念事項にギャップがあります。

* **田中部長(決裁者・キーマン):**
スピード重視、トップダウン型。「標準スケジュールでは遅い」とし、総会でのアピールを最優先しています。現場の運用負荷よりも、期日に間に合うかを重視する傾向があります。

* **佐藤様(実務担当者):**
現場運用への不安大。「現場のメンバーが使いこなせるか心配」「ITツールに不慣れな社員も多い」と、ITリテラシーへの懸念を強く抱いています。部長の意向で急いで導入された結果、現場が混乱し、佐藤様が板挟みになるリスクがあります。手厚いケアが必要です。

### 4. 絶対遵守のスケジュール
* **日付:** 1月15日(全社総会)
* **理由:** 社長へのお披露目があるため、デッドラインは動かせません。
* **リスク補足:** 商談日が12月10日であり、年末年始の休暇を挟むことを考慮すると、実質的な稼働日は非常に少なく、危険なスケジュールです。来週早々のキックオフから最短最速での着手が必須です。
NotebookLM CS HandOverイメージ

AIが「状況」を理解している強み

出力結果を見ると、「12/10商談で1/15納期」という情報から、「年末年始を挟むから実質稼働日が少ない」という、テキストには書かれていない文脈を補完しています。
これは、単なるキーワード検索ではなく、AIが一般的な知識と組み合わせて状況を推論しているからです。

ただし、AIの出力はあくまで「ドラフト」です。
営業本人に「この認識で合ってる?」と確認するステップは必ず入れてください。「言ったつもりはなかった」「ニュアンスが違う」といったズレは、この段階で潰しておくのがベストです。

6. まとめ:仕組みで「溝」を埋める

営業とCSの断絶は、どちらかが悪いのではなく、情報の「粒度」が違うことから生まれます。
営業は「契約」というゴールに向かって走り、CSはそこからの「継続」を見ている。
見ている景色が違うから、渡すべき情報も違う。

これまでは、その翻訳作業を「引き継ぎミーティング」や「営業の記憶力」に頼っていました。
でも、忙しい月末にそこまで手が回らないのが現実です。

NotebookLMを使えば、商談中の「空気感」や「文脈」という、これまでこぼれ落ちていた情報を拾い上げ、次の走者に渡すことができます。
営業は素材をフォルダに入れるだけ。
CSはAIが作ったドラフトをベースに確認するだけ。
双方の負担を増やさずに、引き継ぎの質を上げる。
そんな運用が、いま手の届くところにあります。

「聞いてないよ!」をなくし、顧客に「よく分かってくれてるね」と言わせる。
その第一歩として、まずはダミーデータで試してみてください。

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