1. 「今期の競合の動き、どうなってる?」に即答できますか?
四半期ごとの決算シーズン、読者のみなさまはどのように対応されていますか?
経営企画やマーケター、あるいは取引先の管理を行うマネージャーにとって、競合他社の動向チェックは避けては通れない業務です。
売上高や営業利益といった「数字」は、Excelやスプシに入力すればすぐにグラフ化できますし、比較も容易です。
しかし、本当に知りたいのはその数字の背景にある「定性情報」ではないでしょうか。
- 「なぜA社は利益率を下げてまで、その販促費を投じているのか?」
- 「B社がひっそりとリスク欄に記載した、サプライチェーンの懸念点は何か?」
こうした文脈を理解するには、各社の決算短信や有価証券報告書という、膨大なテキスト情報を読み比べる必要があります。
これは非常に骨の折れる作業ですし、時間がいくらあっても足りません。
今回は、GoogleのNotebookLMを活用し、この「定性情報の比較分析」を効率化する手法をご紹介します。
「AIにすべて任せる」のではなく、人間が意思決定するために必要な情報を、AIに「整頓」してもらうアプローチです。
2. なぜ、決算分析にNotebookLMなのか
ChatGPTやGeminiなどのチャット型AIと、NotebookLMの決定的な違い。
それは「ソース(情報源)への忠実性」です。
NotebookLMは、ユーザーがアップロードした資料だけを読み込み、その内容に基づいて回答を作成します(これをRAG:検索拡張生成といいます)。
そのため、ネット上の不確かな情報を拾ってきたり、それらしい嘘(ハルシネーション)をつくリスクを、他のLLMよりも抑えることができます(完全ではありませんが)。
つまり、「A社・B社・C社の決算資料」を読み込ませれば、ソースに基づいた確度の高い横比較が可能になるのです。
3. 実装ガイド:3社の「脳内」を比較する
今回は、競合関係にある3社の決算短信(PDF)を入手したと仮定して進めます。
分かりやすいように今回はAlrightで3社のダミーデータを用意しました。
これらをNotebookLMにアップロードするだけで、分析の下準備は完了です。
ステップ 1: 資料のアップロード
NotebookLMを開き、新しいノートブックを作成します。
左側の「ソース」エリアに、3社分の最新の決算短信PDFをドラッグ&ドロップしてください。
Google ドライブに格納済みの場合は、そちらから参照しても構いません。

ステップ 2: 「戦略の重心」を可視化するプロンプト
まずは、各社がどこにリソース(人・資金)を集中させようとしているのか、その「重心」の違いを比較します。
以下のプロンプトを入力してみてください。
📌 プロンプト 01:投資優先順位の比較
アップロードした3社の決算資料に基づき、各社の「今後の見通し」および「経営方針」を分析してください。
以下の観点で比較表を作成し、その後に定性的な解説を加えてください。
1. 成長のための最優先投資領域(何に予算を使おうとしているか)
2. コスト削減の対象領域(何を効率化しようとしているか)
3. 文中で頻出するキーワードやテーマの違い
この出力結果を見るだけで、数字だけでは見えなかった各社のスタンスの違いが浮き彫りになります。
「グローバル・インダストリー社は事業整理・社内システムのクラウドリプレイスなどDX促進・利益率改善」を狙っているのに対し、「テック・フロンティア社はプロモーション・積極採用・新機能開発とかなり攻めの先行投資」を行っている、といった戦略差が一目で分かります

ステップ 3: 「隠れたリスク」を抽出するプロンプト
次に、各社がどのようなリスクを認識しているかを探ります。
特に与信管理や中長期戦略を練る方にとって重要なパートです。
📌 プロンプト 02:外部環境リスクの抽出
各社の「事業等のリスク」または「経営成績の分析」のセクションを参照し、各社が懸念している「外部環境の変化」を抽出してください。
特に、以下の点について各社の認識の温度差(楽観的か、悲観的か、具体策はあるか)を比較してください。
・為替変動への影響度
・原材料価格の高騰に対する認識
・法規制やコンプライアンスに関する懸念
このプロンプトを使うと、「グローバル・インダストリー社は為替変動リスクに対して高い懸念とかなり具体的な対策を記載しているが、ネクスト・ホールディングス社は記載自体が見当たらない」といった、リスク管理に対する本気度や解像度の差をあぶり出すことができます。

👉 重要なTips
数字が怪しいときは「番号」をクリックしてみましょう。
NotebookLMの回答には、文末に小さな「参照番号(脚注)」がついているはずです。
ここをクリックすると、PDFの原文の該当箇所がハイライト表示されます。
「本当にこんなこと言ってる?」と疑問に思ったら、すぐに原文に飛んで確認してください。
「AIが集めて、人間が裏を取る」。このサイクルこそが、業務でAIを使う際の黄金パターンです。
4. NotebookLM利用時に必ず守るAI活用ルール
今回は「公開情報(IR資料)」を扱うため、個人情報や機密情報を含むケースに比べればリスクは低いと言えます。
しかし、企業としてAIを利用する以上、データの取り扱いには万全を期すべきです。
以下のルールを鉄の掟として運用してください。
1. 利用環境の限定
必ずGoogle Workspace(Standard以上)にログインした環境でNotebookLMを利用してください。
無料の個人アカウントとは異なり、この環境下でのデータはAIの学習に利用されません。
ここが担保できない場合、業務での利用は避けるべきです。

2. 公開情報と機密情報の線引き
IR資料のような公開情報であればそのままアップロードしても問題ありませんが、もし分析のために「自社の内部資料(未発表の戦略メモなど)」合わせて読み込ませる場合は注意が必要です。
その際は、アップロード前にGoogle ドキュメント等で以下の加工(マスキング)を行ってください。
- 個人名・連絡先 → 削除または置換
- 未発表の固有名詞・プロジェクト名 → 「プロジェクトA」などに置換
3. 表崩れへの対処法
決算短信のような「2段組み」の複雑なPDFは、まれにAIが読み順を間違えることがあります。
回答が支離滅裂だと感じた場合は、一度Google ドライブ上でPDFを右クリックし「アプリで開く→Google ドキュメント」でテキスト変換してみてください。
(※OCR変換時に数字や表が崩れる可能性があるため、必ず元データとの照合を行ってください)

5. まとめ:レポートに「厚み」を持たせ、考察時間を確保しよう
上司や経営層への報告で、「A社は売上が5%伸びました」とだけ伝えても、「それで?」と返されてしまった経験はないでしょうか。
彼らが求めているのは、「なぜ伸びたのか」「次はどう動くつもりか」「我々はどう対抗すべきか」というストーリー(文脈)です。
NotebookLMを使えば、そのストーリーを構築するための「材料出し」にかかる時間を、半日仕事から数分へと劇的に短縮できます。
浮いた時間は、ぜひ資料作成ではなく、より深い「対抗策」を練るための人間の思考時間に使ってください。
AIは「事実」を集めてくれますが、「意思」を決めるのはあなたです。
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