1. 多忙時の採用だけに書類選考の時間が取れないというジレンマ
営業マネージャーの皆さん、四半期の数字を追いかける中で、採用業務が重荷になっていないでしょうか。
人事から送られてくる大量の職務経歴書。
フォーマットはバラバラ(JIS規格、エージェント独自様式、オリジナルPDF…)、見るべきポイントも散在している。
「とりあえず会ってみるか」と時間を割いた面接で、開始5分でミスマッチに気づいた時の徒労感たるや、筆舌に尽くし難いものがあります。
今回は、GoogleのNotebookLMを活用し、この「書類選考」の工数を劇的に圧縮しつつ、面接の質(解像度)を上げる具体的なフローを解説します。
AIには「情報の整理と構造化」をさせ、人間は「対話と判断」に集中する。
これが2025年のB2B実務におけるAI活用の正攻法です。
2. 必ず守るAI活用ルール/安全な利用環境について
本記事の手法は、実務上の「職務経歴書(個人情報)」を扱います。
導入にあたっては以下のルールを鉄の掟としてください。
ここが守れない場合は、本記事の手法は実行しないでください。
1. 利用環境の限定
必ずGoogle Workspace(Standard以上)にログインした環境でNotebookLMを利用してください。
無料の個人アカウントとは異なり、この環境下でのデータはAIの学習に利用されません。
ここが担保できない場合、業務利用はNGです。

Workspace管理者の方は念のため管理コンソール上でNotebookLMの利用の可否をご確認ください。
公式:ユーザーに対してNotebookLMを有効または無効にする
2. 「マスキング」の徹底
学習されない環境とはいえ、心理的・実務的な万全を期すため、アップロード前のひと手間を推奨します。
Google ドキュメントの「検索と置換」機能を使い、以下のような置換(マスキング)を行ってください。
- 氏名 → 「候補者A」「候補者B」
- 連絡先(電話・住所・メール) → 削除または「[連絡先]」
- 現職・前職の具体的企業名 → 「現職」「前職」「A社」(※競合避止や機密保持の観点から、社名は伏せるのが無難です)
データがPDFの場合も、Google ドライブ上で対象ファイルを右クリックし「アプリで開く→Google ドキュメント」を実施すれば、OCR機能によりGoogle ドキュメントに変換されますので、その後置換作業を行いましょう。

⚠️ 注意
昔の紙をスキャンした画像PDFや、複雑なレイアウト(2カラムなど)の経歴書は、OCR変換時に文字化けやレイアウト崩れが起きる可能性があります。
必ずGoogle ドキュメント化した後に、数字(売上実績や在籍年数)が正しく認識されているか、元データと照合を行ってください。
3. ソースの準備とアップロード
手元にあるバラバラの情報を、NotebookLMという「箱」に放り込みます。
- 求人票(ジョブディスクリプション):営業部に求めている要件(Must/Want)が書かれたドキュメント。
- 職務経歴書(Googleドキュメント化・加工済み):候補者A、B、C、3名分。
利用媒体や企業によって、ドキュメントの種類は様々かと思いますが、企業側の要件(JD)と候補者のドキュメントを、NotebookLMのソースとして一括アップロードすれば大丈夫です。
これだけで、AIはこの4つの文書の内容だけを熟知した「専属アシスタント」になります。
4. 「マルバツ表」でスキルマッチを一瞬で可視化する
人間が苦手で、AIがもっとも得意なのが「複数の文書を横断して比較すること」です。
バラバラのフォーマットを目視で追うのはやめましょう。
以下のプロンプトを使用し、JD(求人票)を基準とした比較表を作成させます。

📌 プロンプト案 1:スキルマッチング・マトリクス
あなたは百戦錬磨の営業マネージャーのアシスタントです。
ソースにある「求人票(JD)」と「各候補者の職務経歴書」を突き合わせ、比較検討のためのテーブルを作成してください。
【出力要件】
行:求人票に記載されている「必須要件(Must)」および「歓迎要件(Want)」の各項目
列:候補者A、候補者B、候補者C
【評価基準】
各セルには以下のルールで記述すること。
- ○:明確な経験・スキルの記述がある(その根拠となる記述を引用する)
- △:関連する記述はあるが、JDの要件を満たすか判断がつかない(要確認ポイントを記述)
- ×:記述が見当たらない
※推測はせず、あくまでソース内の記述の有無で判定すること。
※記述がない場合は、無理に埋めずに『×』とすること」
※最後に、JDとの適合度が最も高いと思われる候補者1名とその理由を、ロジカルに3行でまとめてください。
🎯 出力イメージ
AIは以下のように、曖昧な記述も含めて構造化します。
| 要件 | 候補者A | 候補者B | 候補者C |
|---|---|---|---|
| 法人営業経験(5年以上) | ○ 10年間(人材業界) | △ 合計期間が不明確 | ○ 7年間(証券+商社) |
| SaaS商材の販売経験 | × 記述なし | ○ 人事系SaaS経験あり | × 記述なし |
| マネジメント経験(5名〜) | ○ 10名の管理経験あり | × 記述なし | × 記述なし |
これにより、「誰が」「どの要件を」満たしているかが一目瞭然になります。
「営業経験3年以上」は全員クリアしているが、「SaaS商材の取り扱い経験」はBさんしかいない、といった事実が秒速で可視化されます。

5. 「曖昧な実績」を突く面接質問を生成する
経歴書には「嘘」までは書かれていなくとも、「都合の悪いこと」は書かれないものです。
あるいは、成果を盛るために曖昧な表現(「チームを牽引し〜」「売上に貢献し〜」)が多用されがちです。
面接官として聞くべきは、この「行間」です。
行動特性を見極める「STARフレームワーク」を応用し、深掘りすべき質問を作らせます。
📌 プロンプト案 2:STARに基づく不確実性検知
各候補者の経歴書を批判的に読み込み、面接で深掘りすべき「リスク要因」や「曖昧な点」を洗い出してください。
採用面接のフレームワーク「STARメソッド(Situation, Task, Action, Result)」に基づき、以下の要素が欠けている、または具体性に欠けるエピソードを指摘してください。
【出力フォーマット】
### 候補者Aへの質問リスト
1. **指摘箇所**: (例:〇〇プロジェクトでのリーダー経験)
- **欠けている要素**: (例:具体的なActionと、本人の単独の成果かどうかが不明)
- **面接での質問案**: 「チーム全体の成果ではなく、あなたが『個人の判断』で実行し、状況を好転させた具体的な行動を一つ教えてください」
(以下、各候補者ごとに2〜3点出力)
これにより、「なんとなく良さそう」という印象論ではなく、「この成果の再現性はあるのか?」という仮説を持って面接に臨むことができます。

6. AIは「会うべき人」までは教えてくれない
NotebookLMを使えば、書類の読み込み時間は従来の1/10以下になるでしょう。
しかし、忘れてはならないのは、AIが出した「適合度が高い候補者」が、必ずしも「自社のカルチャーに合う人物」とは限らないということです。
- 「行間を読む」のではなく「行間を指摘させる」。
- 「判定させる」のではなく「比較させる」。
AIは、記述の有無は判定できても、記述の真偽までは判定できません。
つまり、合否判定を行うことはできないわけです。
それでも、この線引きさえ間違えなければ、NotebookLMは営業マネージャーの最強の右腕となります。
浮いた時間で、候補者とじっくり向き合い、口説くための戦略を練ってください。
そちらの方が、よほど「人間らしい」仕事のはずです。
7. 面接を意義のある対話にするためにAIを使いたい
これまでの採用面接を思い出してください。
「職務経歴書のここについて教えてください」「あ、それはですね…」という、事前の書類を見ればわかる事実確認に、貴重な面接時間の半分(30分)を使っていなかったでしょうか?
NotebookLMを活用することで、この「確認フェーズ」を極限まで圧縮できます。
面接官は、部屋に入った瞬間から、AIが生成した「核心を突く質問」を投げかけることができます。
「数字は達成されていますが、チームで再現するためにどのような仕組みを作りましたか?(候補者Aへ)」
「SMBとエンタープライズの攻め方の違いを、具体的にどう捉えていますか?(候補者Bへ)」
これにより、面接は「経歴の確認作業」から、「思考力とカルチャーマッチの深掘り」へと進化します。
AIに「採用」を決めさせる必要はありませんが、AIに「面倒な読み込みと整理」を任せる必要があるのです。
なぜなら、あなたが、AIと事前検討を済ませた候補者もまた、AIとしっかり壁打ち・ロープレを行い、理論武装してきている可能性があるからです。
しっかりと事前準備を済ませたうえで、面談は「相手の目を見て話すこと」に全力を注ぎましょう。
8. 今からNotebookLMで書類選考を始めてみる方へ
もし、いきなり実際の候補者データを使うのがためらわれる場合は、「あなた自身の職務経歴書」でテストしてみるのがもっとも手軽で安全です。
ご自身の経歴書(個人情報加工済み)と、現在の自部門の募集要項(JD)をNotebookLMに入れてみてください。
「今の自分が、今のチームに応募したらどう判定されるか?」。
その結果の「納得感」を通じて、リスクゼロでAIの精度とクセを肌感覚で理解できるはずです。
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