1. 頭を悩ませる月末の契約書チェックに終止符を
営業マネージャーやプロジェクト責任者の皆様。月末の「契約書チェック」で、首が痛くなりませんか?
デュアルモニターの左側に、3年前に締結した「基本取引契約書(甲)」。
右側に、今回の案件で交わす「個別契約書(乙)」。
「えーと、支払サイトは基本契約通り『月末締め翌月末払い』になってるか?」
「知財の帰属は、基本契約の第○条と矛盾してないか?」
「今回のSOW(作業範囲記述書)、基本契約の免責範囲を逸脱してないか?」
左を見て、右を見て、また左を見る。
この「首振り運動」は、どれだけ経験を積んでも消耗戦です。
しかも、人間がやる以上、疲労による見落としリスクは消えません。
今回は、GoogleのNotebookLMを使い、この「読み合わせ」の苦行を劇的に効率化する方法を解説します。
エンジニアの世界には、新旧のコードの違いを一瞬で見つける「Diff(差分)ツール」というものがありますが、NotebookLMを使えば、我々も契約書で同じことができます。
営業マネージャーのみなさんがそうであるように、今回AIに法的な判断をさせるわけではありません。
AIを「疲れを知らない高性能な『間違い探し』係」として活用します。
2. Professional Note:安全な利用環境について
本記事の手法は、実務上の契約書を扱います。
導入にあたっては以下のルールを鉄の掟としてください。
1. 利用環境の限定
必ずGoogle Workspace(Standard以上)にログインした環境でNotebookLMを利用してください。
無料の個人アカウントとは異なり、この環境下でのデータはAIの学習に利用されません。
ここが担保できない場合、業務利用はNGです。
公式:Google Workspace プラン表 https://workspace.google.com/intl/ja/lp/business/

Workspace管理者の方は念のため管理コンソール上でNotebookLMの利用の可否をご確認ください。
公式:ユーザーに対してNotebookLMを有効または無効にする https://support.google.com/a/answer/15239506?hl=ja
2. 「マスキング」の徹底
学習されない環境とはいえ、心理的・実務的な万全を期すため、アップロード前のひと手間を推奨します。
Google ドキュメントの「検索と置換」機能を使い、以下のような置換(マスキング)を行ってください。
- 社名 → 「甲社」「乙社」
- 代表者名 → 「代表A」「代表B」
- 具体的な金額 → 「[金額]」(※条項の論理チェックが目的であれば、金額そのものは伏せても問題ありません)
データがPDFの場合も、Google ドライブ上で対象ファイルを右クリックし「アプリで開く→Google ドキュメント」を実施すれば、OCR機能によりGoogle ドキュメントに変換されますので、その後置換作業を行いましょう。

※昔の紙をスキャン・撮影した古い画像をもとにしたPDFの場合は、OCR作業やその後のAI判断で文字を誤認識する可能性が高まります。
Google ドキュメントのデータと、元PDFの照合を行うようにしましょう。
3. そもそも「Diff(差分)」とは何か?
エンジニアでない方には馴染みがない言葉かもしれませんが、「Diff(ディフ)」とは、2つのファイルの「違っている部分だけ」を色付きで表示してくれる機能のことです。
通常、契約書の読み合わせでは、人間が全文を読んで「違い」を探しに行きます。
しかし、NotebookLMを使ったこのメソッドでは、「基本契約(マスタールール)」と「個別契約(ローカルルール)」をAIに比較させ、矛盾点だけを抽出させます。
つまり、「合っている部分は読まなくていい。違っている部分だけ教えてくれ」という、究極のショートカットが可能になるのです。
4. 既存ツール(Word/Google ドキュメント)の「比較機能」ではダメなのか?
「え、文書の比較ならWordでもできるでしょ?」と思われた方もいるかもしれません。
確かに、皆さんが弁護士や法務担当から受け取る「赤字や取り消し線が入った修正ファイル」。
あれは以下の機能で作られています。
- Word: [校閲]タブ > [比較]
- Google ドキュメント: [ツール] > [ドキュメントを比較]
これらは非常に強力な機能ですが、あくまで「同じ文書の『バージョン違い』」を確認するためのものです。
「契約書_v1.docx」と「契約書_v2.docx」を並べて、「てにをは」や「追加された一行」を見つけるのには最適です。
しかし、今回やりたいのは「基本契約書」と「個別契約書」という、全く別の文書の比較です。
これを上記機能で比較しても、全文が「不一致」とみなされ、画面が真っ赤になるだけです。
これでは仕事になりませんよね。
NotebookLMが画期的な理由
従来のツールによる比較機能が「文字の形(テキスト)」の違いを見るのに対し、NotebookLMは「条項の意味(ロジック)」の違いを見ます。
- ドキュメントツールの比較: 「この行とこの行は、文字が違うので赤くします」
- NotebookLMの比較: 「文章は全然違いますが、言ってること(支払期限の定義)が基本契約と矛盾しています。あと、その根拠はここにあります」
この「文脈を理解した上での比較・解説」こそが、従来のツールでは不可能だった領域なのです。
5. 実践:NotebookLMで「矛盾」をあぶり出す
手順は極めてシンプルです。
- NotebookLMを開き、新しいノートブックを作成する。
- ソースとして、比較したい「基本取引契約書.pdf」と「個別契約書(または発注書).pdf」の2つだけをアップロードする。
- 余計な背景情報は入れない。ノイズになるだけです。
これで準備完了。
AIという名の「超几帳面なアシスタント」が、2つの文書をメモリに展開しました。
6. そのまま使える!検証プロンプト例
ここでのポイントは、AIに「良い契約書を作って」と頼むのではなく、「親(基本契約)と子(個別契約)の言っていることが違う箇所を見つけろ」と命令することです。
プロンプトA:ビジネス条件の不整合チェック
もっとも頻度が高く、かつミスが許されない「お金と権利」のズレを確認する指示です。
📌 プロンプト例
**ソース1の「基本取引契約書」を正(マスタールール)として、ソース2の「個別契約書」の内容を監査してください。**
**特に以下の項目について、基本契約書の条項と矛盾する、あるいは不利な変更がなされている箇所があれば、該当条文を引用してリストアップしてください。**
- **支払条件(サイト、通貨、振込手数料の負担)**
- **成果物の権利帰属(著作権の譲渡有無)**
- **損害賠償の範囲と上限**
- **検収期間**
**もし、基本契約書には存在するが、個別契約書では言及されていない(意図せず欠落している)重要な条項があれば指摘してください。**
🎯 解説
「ソース1を正として」という前提条件が重要です。
これにより、AIは「どちらのルールが優先されるべきか」を理解した上で比較を行います。

プロンプトB:スコープ(適用範囲)のリスク判定
今回の業務が、既存の契約枠組みでカバーできているかを確認する、マネージャークラス向けの指示です。
📌 プロンプト例
**今回の個別契約書における業務内容(役務の範囲)は、基本契約書の「第○条(秘密保持義務)」および「第△条(再委託の禁止)」の適用範囲内に収まっていますか?**
**もし、今回の業務内容が特殊で、基本契約の条項だけではリスクヘッジしきれない可能性がある場合は、その理由と「法務に確認すべきポイント」を提示してください。**
🎯 解説
例えば、基本契約が「システム開発」前提なのに、今回の個別契約が「コンサルティング」の場合、瑕疵担保責任などの考え方がマッチしないことがあります。
そうした「前提のズレ」をあぶり出します。

7. NotebookLMを選ぶ最大の理由:Citation(引用機能)
「AIは嘘をつく(ハルシネーション)」という問題は有名ですが、この読み合わせ業務においてNotebookLMが最強である理由は、回答の文末に必ず付く「引用番号 [1] [2]」にあります。
他の生成AI(ChatGPTやClaude)は、「矛盾があります」と流暢に答えてくれますが、「本当に?原文のどこに書いてある?」を確認するには、結局人間がデータをスクロールして探さなければなりません。
👉 NotebookLMの場合
- AIが「支払サイトが基本契約と異なります [1]」と回答する。
- あなたが [1] をクリックする。
- 画面左側のソースが動き、「まさにその条項が書かれた箇所」がハイライト表示される。
これがAI時代の「Diff」体験です。
AIの指摘が正しいかどうか、人間が「原典」を一瞬で見て裏取り(ファクトチェック)ができる。
法務判断(この矛盾を許容するかどうか)は、あなたや法務部が行います。
AIは、その判断材料となる「違い」を見つけて、指差してくれるだけです。
しかし、その「指差し確認」の精度とスピードが、我々の残業時間を確実に減らしてくれます。
8. まとめ NotebookLMによる一次リーガルチェックがあなたの会社を守る
まずは手元にある、すでに締結済みの「基本契約書」と、直近の「注文書(裏面約款なし)」や「覚書」を、必ず自社のGoogle Workspaceのプランを確認したうえで、NotebookLMに入れてみてください。
違いを見つけたら、法務に相談する前に、まずはNotebookLMが示したソース番号をクリックして原文を目視確認してください。
AIの指摘が合っているか確認するその数秒が、あなたの会社を守ります。
そんな「小さなズレ」をAIが見つけてくれたら、業務改善確定です。
その瞬間から、あなたのリーガルチェック業務は「読む」作業から「確認する」作業へと進化します。
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