1. なぜ中堅の評価面談は難しいのか
新人のころは「数字を出せるかどうか」、マネージャー層になれば「チームを動かせるかどうか」。
評価の軸が比較的わかりやすいのに対して、中堅営業の評価面談は一筋縄ではいきません。
月次の成果は安定しているし、新規も既存もある程度回せる。
にもかかわらず、面談になるとこんな悩みが浮かびます。
- 「数字は出しているけど、勝ちパターンが説明できない」
- 「提案力はあるが、初期接点づくりが弱い…どう指摘すればいい?」
- 「次のステップをどう描くか話したいのに、キャリアの絵が曖昧」
つまり、中堅層は「悪くない」ゆえに評価が抽象化しやすく、面談が形式的な振り返りに終わってしまうのです。
そこで必要になるのが、数字の裏にある行動や学習のログを可視化する視点です。
AIを活用すれば、商談データや活動メモから「再現性のある強み」と「隠れた課題」を抽出でき、面談を単なる査定から「次の挑戦を描くキックオフ」に変えることができます。
2. 中堅評価が陥る3つの壁
中堅営業の評価面談が難しくなる背景には、大きく3つの壁があります。
① 再現性が不明確
成果は出しているものの、なぜ勝てたのかを説明できないケースが多いです。
例えば「たまたま良いタイミングで商談が進んだ」「相性のいい顧客と巡り合った」といった偶然に依存してしまうと、他の案件やメンバーに展開できません。
結果として、本人にとっても上司にとっても、成長の根拠が曖昧になります。
② 強みと弱点の差が拡大
中堅になると、得意な領域はより磨かれる一方で、不得意領域は放置されやすい傾向があります。
「提案資料の作成は抜群だが、初回接点づくりは苦手」「既存顧客の深耕は得意だが、新規開拓は後回し」といったように、偏りが大きくなるのです。
その結果、面談での指摘は「バランスよくやろう」と抽象的になりがちで、具体的な改善プランに落とし込みにくいのが現実です。
③ 成長の頭打ち感
月次や四半期の数字は安定していても、年単位でのブレイクスルーが見えにくいのも中堅層の特徴です。
次のキャリアステップとして「リーダー候補」「専門特化」「仕組みづくり」などを描ければ良いのですが、強みや課題の言語化が曖昧なままでは、本人と上司が未来像を共有できません。
その結果、面談が「現状確認の場」に留まり、挑戦を設計する場に発展しないのです。
3. AI活用の5ポイント(面談前に整えておくべきこと)
中堅営業の評価面談を「数字の査定」から「再現性の設計」へと変えるために、AIが果たせる役割は大きいです。
特に有効なのは、以下の5つのポイントです。
3-1. 成果ログの深掘り分析
📊 準備するデータ例
受注/失注結果、案件規模、起点チャネル、初回接触から提案までの日数、意思決定者接触率、競合聴取の有無など。
🤖 AIにやらせること
受注案件と失注案件を突き合わせ、「成功要因」「失注要因」を抽出。
行動や属性の組み合わせから勝ち筋マトリクスを可視化します。
💬 面談での使い方
「あなたの成功はこういう条件が重なると生まれやすい」と仮説を提示し、本人の感覚と照らし合わせる壁打ちに活用。
3-2. 強みの言語化
🤖 AIにやらせること
商談メモやSFAログから、再現性のある行動パターンを抽出。
出力は「ラベル名」「定義」「代表エピソード」「再現条件」といった形式に整える。
💬 面談での使い方
強みを本人語で短く言語化して共有することで、自覚を深めると同時に、部内でのOJT教材としても転用可能。
3-3. 課題の特定と良い問いの生成
🤖 AIにやらせること
行動指標の偏りを検出し、「なぜそうなったのか」を掘り下げる質問リストを生成。
例:why(なぜ初回接触が遅れたのか)→how(どう改善できるか)→try(小さく試せることは何か)
💬 面談での使い方
詰問ではなく、本人の仮説を出させた後にAIの問いをぶつける形で活用することで、建設的な対話に。
3-4. 次のステップ設計
🤖 AIにやらせること
強みと課題を踏まえた複数のキャリアシナリオを提示。
- リーダー候補ルート(メンバー育成や仕組み化)
- 専門特化ルート(大口顧客担当、技術知識強化)
- 仕組み構築ルート(提案資料の型化、ナレッジ化)
💬 面談での使い方
四半期ごとに「役割・行動・証跡・評価指標」を設計し、挑戦の合意形成を行う。
3-5. 比較レビュー
🤖 AIにやらせること
前回の面談内容と今回のログを比較し、「深化した強み/変化した課題/新しく見えた挑戦」を3行に要約。
💬 面談での使い方
冒頭5分で共有し、全員が同じ前提に立ってから議論をスタート。
残りの時間を未来設計に集中できる。
4. 具体的なプロンプト例(すぐに試せる形で)
ここからは、実際の面談準備でそのまま活用できるプロンプト例を紹介します。
SFAやCRMからエクスポートしたCSVや表形式のログを前提にしていますが、要約レベルで十分対応可能です。
4-1. 強み抽出(再現性のある行動パターン)
まずはシンプルに「この人の強みは何か」を言語化します。
📌 簡易版プロンプト(まず試す用)
この営業担当の受注/失注ログを読んで、強みと課題を3つずつ要約してください。
📌 詳細版プロンプト(再現性まで含める用)
あなたは営業マネージャーのアナリストです。
以下の案件ログ(受注/失注、金額、起点チャネル、接点回数、所要日数、商談メモ要約)を読み、この担当者に固有の「再現性のある行動パターン」を3~5個に要約してください。
出力フォーマット:
- 強みラベル: 12文字以内
- 定義: 1行
- 代表エピソード: 箇条書き2件(案件ID付き)
- 再現条件: この行動が機能しやすい前提(チャネル/意思決定構造/商材難易度など)
4-2. 失注要因の分解(可視/不可視の両面)
📌 プロンプト
以下の失注案件ログから、失注要因を「可視要因(価格/タイミング/仕様)」と「不可視要因(仮説不足/関係性/稟議経路未特定)」に分け、寄与度の高い順に上位5つを列挙。
各要因に対する「次回の観察ポイント」と「検証質問例」を付けてください。
4-3. 行動の偏り検出(強みの裏返しを見つける)
📌 プロンプト
担当者の行動指標(初回ヒアリング深度、提案前の合意事項数、競合聴取の有無、意思決定者接触率など)を集計しました。
平均との乖離が大きい指標を3つ挙げ、「強みの裏返しとしてのリスク」と「ミニ改善(2週間でできること)」を提案してください。
4-4. リーダー候補Try設計(四半期×役割)
📌 プロンプト
この担当者を次の1年でリーダー候補に育てます。
強み/課題の要約を踏まえ、四半期ごとに「役割」「行動」「証跡」「評価指標(Leading/ Lagging)」をセットで3案提案してください。
最後に“最小完了基準(Definition of Done)”を1行で。
4-5. 面談比較レビュー(差分5分サマリー)
📌 プロンプト
前回面談メモと今回のログ要約を比較し、1) 深化した強み 2) 変化した課題 3) 新たな挑戦 の3点をそれぞれ1~2行で出力してください。
冒頭5分で共有する前提なので簡潔に。
固有名詞は隠し、行動の型で表現してください。
5. 業界別の着眼点(評価で見逃しやすいポイント)
中堅営業の面談にAIを活用する際は、業界特性に応じて「見るべきログ」が少しずつ変わります。
ここでは代表的な4業界の着眼点を整理します。
SaaS営業
- 商談回数:初回接触からクロージングまでに何回の商談を要したか
- リード獲得チャネルの再現性:広告/展示会/インバウンドなど、どのチャネルで安定して成果が出ているか
- 解約・継続率:短期成果だけでなく、導入後の定着状況も評価対象に
製造業営業
- 長期決裁プロセス:見積提出から受注までの期間、その間の接触頻度
- 決裁経路の把握率:誰が実際にハンコを押すのかをどの段階で特定できているか
- 仕様変更対応:顧客要望への柔軟な対応履歴
不動産営業
- 初回接点の質:飛び込み・問い合わせ・紹介など、どの起点が成約につながりやすいか
- 内見同行の行動ログ:内見件数/所要時間/顧客反応の記録
- 条件確認の深さ:顧客ニーズのヒアリングがどれだけ網羅されているか
小売・EC営業
- キャンペーン反応差:販促ごとのCV率やリピート率
- 顧客属性ごとの成果:年齢層・購入履歴別にどこで成果を伸ばせているか
- 在庫・供給調整の工夫:商談だけでなく、供給面での工夫が成果に寄与しているか
こうした業界ごとの見どころをAIに教えておけば、抽出される強みや課題がより実態に近づきます。
面談では「この業界ならではの行動ログ」を意識して共有することで、本人の納得感と改善の具体性が大きく高まります。
6. 運用の注意点(AIはあくまで整理役)
AIを評価面談に取り入れると便利ですが、「評価をAIに任せる」のは大きな誤解です。
活用にあたっては、以下の点に注意してください。
① AIは仮説整理まで
AIはログをもとに「強みのパターン」や「課題の仮説」を提示するのが役割です。
最終的な評価や査定は必ず人間が行うことを前提にしましょう。
② 本人の主体性を尊重する
AIの問いをそのまま投げると尋問になりがちです。
まずは本人に「なぜそう思うか」「どう感じているか」を語らせ、その後にAIの問いを壁打ち的に活用すると建設的な対話につながります。
③ データ品質がすべて
AIは入力データの質に左右されます。
商談メモの書き方が属人的だったり、抜け漏れが多いと誤学習のもと。
商談記録フォーマットを部内で統一することが第一歩です。
④ 評価と育成を分けて扱う
「査定」と「コーチング」を同じ時間で行うと、どちらも中途半端になります。
AIのサマリーや分析結果も、評価用/育成用で別フォーマットに分けるのがおすすめです。
⑤ バイアス管理と透明性
AIが示す勝ち筋に属性要素(年齢・性別など)が紛れないかを必ずチェック。
また、面談前にAIが作った要約を本人にも共有しておくことで、防衛反応を減らし、前向きな議論に集中できます。
7. AIで頭打ちを破り、挑戦のキックオフへ
中堅営業の評価は「悪くない」ゆえに抽象化しやすく、面談が数字の確認会に終始してしまいがちです。
しかし、AIを活用して数字の裏にある行動ログを分解すれば、次のような変化が起こります。
- 強みの芯が言語化される→自覚と再現性が高まる
- 弱点の具体が見える→小さな改善アクションに落とし込める
- 未来の挑戦が描ける→面談がキャリア設計の場に変わる
面談は過去を反省する場ではなく、未来を設計する場であるべきです。
AIはそのための整理役・可視化役として、マネージャーと本人を支える存在になれます。
「数字は出ているけど、この先どう伸ばすかが見えない」
そんな頭打ち感を突破するヒントは、すでに社内のログに眠っています。
AIを使ってそれを掘り起こし、評価面談を次の挑戦のキックオフに変えていきましょう。