1. OJTを「学習サイクル化」する視点
営業育成で避けて通れないのがOJT。
「横で見て学んで」「終わったあとに指摘して」といったやり方は、確かに昔から多くの現場で行われてきました。
ですが、そのスタイルは属人的になりやすく、再現性も低いという弱点があります。
そこで大事なのが、OJTを学習サイクルとして設計する視点です。
1回の同行や現場対応を点で終わらせるのではなく、「1週間単位で回す小さなPDCA」に変えていく。
これにより、どんなメンバーでも一定の成長速度を確保できます。
一言で言えば「毎週のミニ目標を決めて、すぐに直して、次に活かす」手法です。
この記事では、その仕組みをつくるためのフレームワークとして
- SMART(目標を1週間行動に落とし込む型)
- SBI(その場で短く伝えるフィードバックの型)
を中心に取り上げると共に、業界別のOJTシーンを例に、実際にどう回すかを解説します。
2. SMARTで1週間の行動目標に落とす
営業OJTでよくあるのが、「もっと頑張れ」「来月は数字を上げよう」といった曖昧な指導。
これでは新人も中途も「何をすればいいのか」が見えず、成長が止まってしまいます。
ここで役立つのがSMARTです。
SMARTとは、目標を次の5つの観点で整理するフレームワークです。
- S(Specific:具体的)→何をやるのか明確に
- M(Measurable:測定可能)→数や回数で表せる
- A(Achievable:達成可能)→1週間でやれる範囲に
- R(Relevant:関連性)→今の営業課題に直結する
- T(Time-bound:期限)→締切は「来週の金曜まで」
1週間目標のテンプレ
来週は、(対象リスト◯社)に対して、(新しいトーク/資料)を「◯回」試す。
金曜までに、(ログ・録音・所感)を提出する。
👉 ポイント
数字と締切を入れるだけで、実行できる行動に変わります。
サンプル目標
- 新人営業「来週は既存リード10件にフォロー架電を行い、スクリプトBの質問3つを必ず使う。金曜までに録音3本を提出」
- 中途営業「来週は休眠顧客5社へ再提案メール+2日後の確認架電を実施。テンプレ2種類を試し、反応の違いをまとめる」
- ベテラン(兼トレーナー)「来週は新人との同席ロールプレイを2回行い、強み1点+改善点1点をSBIで即時フィードバック。結果を共有フォルダに記録する」
📌 AI活用プロンプト例(OJTログ→SMART化)
あなたは営業OJTのトレーナーです。
以下のOJTログをもとに、来週1週間で実行できるSMART目標に整理してください。
# 出力要件
- 見出し「来週のSMART目標」
- S/M/A/R/Tを1行ずつ
- 最後に「チェックリスト(3〜5項目)」を付ける
# OJTログ
(ここに今週のメモや録音要約を貼る)
👉 ポイント
「大きな成果」ではなく、「繰り返せる行動」に落とすこと。
これだけでOJTが「次の1週間に向けて動き出す仕組み」に変わります。
3. フィードバックモデルをOJTに当てはめるSBI法
1週間の目標をSMARTで決めても、実行の場で放置してしまうと意味がありません。
そこで効くのが、「その場で30秒」で伝えられるフィードバックの型です。
代表的なものとしてSBI法が挙げられます。
- S(Situation:状況)→いつ/どの場面で
- B(Behavior:行動)→具体的に何をしたか
- I(Impact:影響)→相手や成果にどう影響したか
👉 ポイント
「褒め→改善→次の一手」の流れで即時に伝えられるので、OJTでもっとも使いやすいフレームです。
業界別OJTケース
🔹 IT・SaaS営業(デモ説明の改善)
- S:「A社向けデモで、ユーザー管理の説明をした場面」
- B:「権限設定の違いを機能名だけで伝えた」
- I:「顧客が自社運用にどう置き換えられるかをイメージできず、価値が弱まった」
- Next:「来週は現行フロー図→置換後フロー図をセットで説明。3社で試す」
🔹 製造業営業(工場見学での説明)
- S:「工場案内で、新ラインの説明をしたとき」
- B:「部品仕様の数値は出せたが、用途や効果に結びつけなかった」
- I:「顧客に使った後のメリットが伝わらず、印象が弱まった」
- Next:「来週は仕様+用途シナリオを必ずセットで説明。2回実践」
🔹 不動産営業(内見対応)
- S:「2件目の内見で、南向きの採光を説明したとき」
- B:「明るい部屋ですと印象的に伝えただけ」
- I:「数値や時系列データがなく、比較検討で弱かった」
- Next:「日照シミュレーションと写真を必ず提示。3件で試す」
🔹 小売・EC営業(接客練習)
- S:「店頭キャンペーンの説明ロールプレイ」
- B:「商品の特徴だけを列挙した」
- I:「顧客の購買行動(AIDMA)のInterest→Desireを引き出せなかった」
- Next:「来週は特徴→ベネフィット→利用シーンの順に説明。5回練習」
📌 AI活用プロンプト例(現場フィードバック→伝わる形にリライト)
あなたは営業OJTのトレーナーです。
以下のSBIフィードバック草案を
- 30〜60秒で口頭で伝えられるメモ
- Slack投稿用の短文(肯定→改善→次アクション)
にリライトしてください。
相手の自尊心を守るトーンでお願いします。
# SBI草案
S: ...
B: ...
I: ...
👉 ポイント
フィードバックを「型」にすれば、誰が教えても再現性が高まり、メンバーも萎縮しません。
OJT現場では「その場で短く伝える+AIで整理する」の組み合わせが効きます。
4. 運用ルール:毎週レビュー+次週のOJT計画
OJTは「やりっぱなし」が一番もったいない。
毎週のサイクルをシンプルに決めておくだけで、定着度と成長速度は大きく変わります。
ポイントは「金曜にまとめ、月曜にリセット、週中で微調整」です。
✅ 基本サイクル
- 金曜:メンバーがOJTログを提出(実施回数・録音リンク・学び1点・課題1点)
- 月曜:15分レビュー→SBIで振り返り→SMARTで次週目標を設定
- 水曜:5分チェック→回数未達や実践不足があれば即リカバリー指示
👉 ポイント
「金曜アウトプット→月曜フィードバック→水曜チェック」で1週間のリズムを固定します。
✅ 記録テンプレ(共通化がカギ)
- 今週やったこと(件数/相手/成果・反応)
- 録音リンク(3本程度)
- 学び(よかった点1/改善点1)
- 次週に伸ばすべき1点
- 次週SMART(S/M/A/R/Tを1行ずつ)
✅ AI活用のヒント
- ログをAIに渡して「SMART形式に整理」
- 複数人のフィードバックを「重複指摘/一貫性不足」として抽出
- Slack用に「要約+次アクション」を整形
👉 ポイント
人は観察と判断に集中し、形式化や整頓はAIに任せる。
これだけで負担は大きく減ります。
OJTを「毎週同じリズム」で回すことが、習慣化と再現性の第一歩です。
5. つまずきパターンと対処
OJTを回していくと、必ず「うまくいかない壁」にぶつかります。
放置すると成長スピードが鈍化したり、メンバーが不安定になったり…。
ここではよくある「つまずき」を5つと、その解決法をまとめます。
① 複数人が指導してバラバラになる
- 症状:同じシーンで指摘が真逆、メンバーが混乱
- 対処:SBIフォーマット+タグ付けで記録を共通化。
- 例:「#価格説明 #比較表」。さらにOK例/NG例の動画を2〜3本置くだけで全員の基準が揃う。
② 1週間の目標が大きすぎる
- 症状:「来月受注3件」といった到達不能ゴール
- 対処:まずは行動回数に固定。
- 例:「同じトークを3回試す」「日照説明を2件でやる」。成果は二の次、試行→学びを優先。
③ フィードバックが遅れる
- 症状:1週間後にまとめて伝える→記憶が薄れて効果半減
- 対処:「その場で30秒」が鉄則。録音やメモはAIに整形させれば十分。
④ 褒めが弱く、士気が下がる
- 症状:改善点ばかり指摘→自信喪失
- 対処:行動の具体を褒める。
- 例:「比較表を出すタイミングが良かった」。肯定→改善→次の一手の順を守るだけで空気は変わる。
⑤ 現場の変数が多く、型が崩れる
- 症状:相手や場面が違いすぎて毎回やり方がバラバラに
- 対処:「場面ごとのマイクロ型」を作る。
- 例:価格説明/日照説明/権限説明の3パターンだけ標準化し、横展開。
📌 AI活用プロンプト例(ログ→つまずき抽出)
以下のOJTログを読み、よくあるつまずきパターンに分類し、
- 該当パターン名
- 症状(1行)
- 改善アクション(3つ)
を出力してください。
最後に1週間のSMART目標を提案してください。
# OJTログ
(ここに実施メモを貼る)
👉 ポイント
つまずきを型に整理すれば、迷わず次の一歩を提示できます。
AIに分類させると、見落としがちな繰り返しパターンも浮き彫りになります。
6. OJTで使えるそのほかのフレームワーク
OJTの軸は「SMARTで1週間化」「SBIで即時化」で十分ですが、現場によってはもうひと押し役立つフレームがあります。
知っておくだけで引き出しが増え、場面対応の幅が広がります。
🔹 STAR法(Situation-Task-Action-Result)
- 状況→課題→行動→結果の順で振り返る型
- SBIより広めに整理できるので、製造業や長期提案型営業にマッチ
- OJTでは「行動の結果までたどる」クセ付けに使える
🔹 DESC法
- Describe(状況を説明)→Express(気持ちを伝える)→Specify(具体的な行動要求)→Consequence(結果を伝える)
- 言いづらい改善を伝えるときに便利
- 例:不動産の内見で態度がぶっきらぼう → 「最初の挨拶を明るく」など、行動ベースで依頼できる
🔹 AIDMA/AISAS(購買行動モデル)
- Attention→Interest→Desire→Memory→Action
- 小売・ECの接客や訴求練習で有効
- 「どこで顧客の気持ちが止まったか」を切り出してフィードバックできる
🔹 OODAループ
- Observe(観察)→Orient(状況把握)→Decide(判断)→Act(行動)
- 変化対応が速いIT・SaaS営業のOJTに有効
- 週単位で回すより、日々の現場で即リカバリーに向く
👉 ポイント
これらはメインのSMART×SBIを補完するサブ武器です。
「場面によってSTAR」「言いにくい時はDESC」「購買行動ならAIDMA」といった使い分けを知っておくだけで、OJTの幅がぐっと広がります。
7. OJTを「毎週ミニPDCA×その場フィードバック」で再現性ある育成に
OJTを「見て学べ」で終わらせる時代は終わりました。
大事なのは「小さなサイクルを毎週回すこと」です。
- SMARTで「来週やる1つ」に落とし込む
- SBIでその場30秒フィードバック
- 共通フォーマットで記録し、AIに整理を任せる
この流れを続けるだけで、OJTは属人的な「経験談」から、誰がやっても再現できる育成の仕組みへと変わります。
業界ごとの典型シーン(IT・SaaS/製造業/不動産/小売・EC)に当てはめて、型を持つことがポイントです。
さらにSTARやDESCなどの補助フレームを知っておけば、現場対応の幅も広がります。
OJTを毎週の「ミニPDCA」として位置づければ、育成は自然と回り出します。
AIはその伴走役として、ログ整理・リライト・パターン抽出を支援。
人は観察と判断に集中できる。
それが、AI時代のOJTを加速させる新しいスタンダードです。