1. 契約書のチェックという定例苦行(営業あるある)
「新しい年間契約プランを作ったから、利用規約に条項を追加して法務に渡しておいて」
営業担当者なら一度は経験する、この何気ない依頼。
でも実際にやってみると、本来業務とは全く違うテクニカルな作業であることに気づきます。
既存の条項との矛盾はないか。
金額の記載は正確か。
解約条件は明確か。
契約期間の起算日は…。
こうした確認作業は、営業にとって「やらねばならぬからやっている」業務です。
だからこそ、慎重に、確実に体裁を整える必要があります。
法務担当者や顧問弁護士に渡す前の段階で、明らかなミスや見落としがあっては、後の工程が全てストップしてしまいます。
そこで役立つのがClaudeです。
Anthropic公式が法務文書要約の専用ガイドを提供しているなど、契約書レビューに適した環境が整っています。
今回は、実際に当メディアAlrightの利用規約を題材に、営業担当者がClaudeで契約書の一次チェックを行い、法務担当者にスムーズにバトンを渡す方法を解説します。
2. Claudeの一次チェック、想像以上に使える
まず、Claudeが実際にどこまでチェックできるのか、具体例をお見せします。
検証シナリオ
Alrightに新たに「企業向け年間契約プラン(チーム利用:5名まで、年額120,000円)」を追加することになりました。既存の利用規約に以下の条項を追加する予定です。
※ Alrightの規約上に有料プランの記載はあるもののまだローンチ前のものですのでご安心ください。
第8条の2(企業向けプランの特則)
1. 企業向けプランを利用する会員は、年額120,000円(税別)を一括で支払うものとします。
2. 契約期間は1年間とし、解約の申し出がない限り自動更新されます。
3. 解約を希望する場合は、契約満了日の30日前までに通知するものとします。
営業担当者として、この条項案を法務に渡す前に、Claudeで一次チェックを実施しました。
Claudeが指摘した内容
Claudeは既存の利用規約と照らし合わせ、以下の重大な問題を指摘しました。
1. 解約通知期限の矛盾【最重要】
追加案では「契約満了日の30日前まで」となっていますが、既存の第9条3項では「契約期間満了日の前日まで」と規定されています。既存プランと企業プランで解約通知期限が異なるため、ユーザー混乱の原因になります。意図的な差別化なら、第9条に「ただし、企業向けプランは第8条の2の規定による」などの例外規定が必要です。
2. 中途解約時の返金規定が欠落
年額120,000円の一括払いで、年度途中で解約した場合の扱いが不明です。第8条3項・第19条2項では「既に支払われた利用料金は返還しない」とありますが、企業プランも同様か明示が必要です。
営業的には、「年間契約だが3ヶ月で解約したい」というケースで全額返金不可は、企業からクレームになる可能性が高いです。
3. 「会員」の定義の曖昧性
企業契約の場合、契約主体は「法人」なのか「個別利用者」なのか不明です。第5条の「会員」定義では「個人又は法人」とありますが、チーム利用の場合、法人が会員で5名は「利用権限者」なのか、それとも5名それぞれが会員なのか。
これが明確でないと、請求先、契約責任者、利用者管理の権限が不明確になります。
営業が本当に嬉しいポイント
この検証で分かったのは、Claudeが営業にとって本当にありがたいチェックをしてくれるということです。
矛盾と欠落の指摘が自動でできるのは、営業にとって最大の価値です。
既存条項との整合性は、自分で気づく必要がある一次チェックの要所です。
これを見落とすと、法務に渡した後で「ちょっと待って、これ第9条と矛盾してるよ」と差し戻され、案件全体が止まってしまいます。
次に嬉しいのが定義揺れの指摘です。
「会員」という言葉の定義が曖昧だという指摘は、法務のスペシャリストでないと厳しい領域です。
ただ、営業としては少しでも「変だな?おかしいぞ?」と思える付箋を貼れる感じが非常にありがたいのです。
完璧な法的判断はできなくても、「ここは法務に確認が必要」という印をつけられる。
それだけで、法務担当者や顧問弁護士との会話がスムーズになります。
3. Claude Projectsの設定方法
それでは、実際にClaude Projectsをどう設定すれば、営業視点での契約書チェックができるのかを解説します。
プロジェクトの基本設計
Claude Projectsは契約書レビュー専用の作業環境として機能します。
プロジェクト名は「契約書レビュー – 利用規約」など、目的を明示します。
ナレッジベースには、社内の契約ポリシー、標準契約テンプレート、過去の承認済み契約書の良例などを格納します。
量より質を重視し、頻繁にアクセスする高価値情報を優先してください。

カスタム指示の構造化が最重要
プロンプトの細かい文言よりも、カスタム指示の設計品質が結果を左右します。
以下の5つの要素を必ず含めてください。
1. 役割定義
あなたは契約書レビューの専門家です。営業担当者が法務担当者に渡す前の一次チェックを支援してください。
2. タスク仕様
以下の観点から一次チェックを実施してください:
- 金額軸:価格、支払条件、請求サイクル、違約金など
- 時間軸:契約期間、更新条件、解約通知期限など
- 既存条項との整合性:矛盾や欠落がないか
3. ビジネス制約に関する文脈
当社は[業界]で事業を行っており、以下の優先事項があります:
- リスク許容度:[保守的/中程度/積極的]
- 主要懸念事項:[価格条件、解約条件、契約期間]
- 非交渉条件:[具体的要件リスト]
4. チェック項目の明確化
営業がチェックすべき重点項目を明示します。
金額軸では、合計契約金額が見積もりと一致するか、支払期日が明確か、請求サイクルは妥当か、遅延手数料の割合は適切か、価格調整メカニズムは定義されているかを確認します。
時間軸では、納期が具体的な日付で定義されているか、契約期間の起算日は明確か、更新条件と通知期限は整合しているか、解約通知期限は現実的かをチェックします。
5. 出力形式要件
Claude公式ガイドが推奨するXMLタグ構造を使用します。
Claudeはトレーニングデータ内のXMLタグでトレーニングされているため、構造化により解析が容易になり、一貫した出力が得られます。
以下の構造で分析を提供してください:
<契約チェック結果>
<重大な問題>(法務チェック前に必ず修正すべき項目)
<要確認事項>(法務に相談すべき項目)
<軽微な改善提案>(あれば)
</契約チェック結果>
この構造により、営業担当者は結果を一目で理解でき、法務への引き継ぎ資料としても使えます。
4. 壁打ちで法務との会話を予習する
ここからが記事の核心です。
Claudeの一次チェック結果は既に高精度ですが、さらに「壁打ち」を重ねることで、法務担当者や顧問弁護士との会話を先回りして予習できます。
重要な原則
営業が自分で法文を大幅に修正することは推奨しません。
初期テンプレートが壊れてしまう可能性があり、かえってリスクが高まります。
Claudeの出力は「法務との会話の台本」です。
法務に「何を確認すべきか」を整理して引き継ぐことが、営業の役割です。
壁打ち実例1:「他に漏れはないか?」
最初のチェック結果を受け取った後、さらに深掘りします。
今回のチェック結果を見て、営業の立場で他に確認すべき重要な観点はありますか?
特に「企業との契約でよく問題になる条項」で、今回触れられていない項目があれば教えてください。
Claudeからの回答で特に重要だったのが、以下の3点です。
請求書払い対応の必要性
追加案では「クレジットカード決済」のみが想定されていますが、大企業・中堅企業の大半は社内規定で「クレカ決済禁止」です。経理部門から「請求書+銀行振込」を要求されます。年額12万円の一括払いなら、なおさら請求書が必須です。
これは営業現場でよく遭遇する問題です。
「申し込みたいけど、請求書払いができないなら稟議が通らない」と言われ、案件が止まってしまうケースが非常に多いのです。
個別契約書締結要求への対応
利用規約への同意(Web上での「同意する」チェック)だけでなく、企業側から「紙の契約書2部(記名押印)を交わしたい」「我が社の購買基本契約書のひな型を使いたい」という要求が来る可能性があります。
これも営業あるあるです。
特に大企業では購買部門の規定で、Web上の同意だけでは契約として認められないケースがあります。
データ所有権の明確化
企業が本サービスにアップロードした営業資料、顧客データ、内部文書の扱いが不明確です。「AIの学習に使われるのか?」「他社に見られるのか?」という質問が必ず来ます。
これらの指摘は、まさに営業と法務が二次チェックで話し合う内容そのものです。
Claudeとの壁打ちで、この会話を先回りして予習できるのです。
壁打ち実例2:「顧客企業の法務の視点」
次に、相手側の視点でチェックします。
今度は「顧客企業の法務担当者の視点」で同じ条項案をチェックしてください。
当社に有利すぎて、顧客側が契約を躊躇する可能性がある条項はありますか?
この質問で、商談の初期段階で顧客から来る質問を予測できます。
例えば「責任制限条項」について。現在の利用規約では「当社の故意または重大な過失による場合を除き、一切の責任を負いません」となっています。
顧客企業の法務部門は、この「一切の免責」条項をまず削除要求してくる可能性が高いです。BtoBでは「少なくとも過去6ヶ月分の利用料金を上限に損害賠償責任を負う」といった上限設定が標準的です。
営業担当者として、こうした質問が来ることを事前に知っていれば、「この点は法務と調整中です」と即答でき、商談がスムーズに進みます。
壁打ち実例3:「法務への引き継ぎメモ作成」
最後に、法務への引き継ぎ資料を作成します。
営業から法務担当者に引き継ぐ際のチェックリストを作成してください。
特に「営業として確認した項目」と「法務に判断を仰ぐべき項目」を明確に分けてください。
Claudeが生成したメモは、以下のような形式です。
【営業として確認済み】
- 金額:年額120,000円(税別)で記載
- 契約期間:1年間で起算日は契約成立日
- 自動更新:解約申し出がない限り継続
【法務に確認が必要な項目】
1. 解約通知期限の統一(30日前 vs 前日まで)
2. 中途解約時の返金ポリシー
3. 「会員」の定義(法人契約時の扱い)
4. 請求書払いへの対応方針
5. 個別契約書締結要求への対応
このメモを添えて法務に渡すことで、「営業として何をチェックしたか」が明確になり、法務も重点的に確認すべきポイントが分かります。
まるで優秀な法務担当の同僚と壁打ちしている感覚です。
一人で悩むのではなく、Claudeと対話しながら「法務に何を聞くべきか」が整理できるのです。
5. 営業の役割は「体裁を整える」こと
ここまでの内容で分かるように、営業担当者の役割は「契約書を完璧に作る」ことではありません。
金額・時間軸の整合性を確認し、法務に相談すべきリストを作成し、法務との会話をスムーズにする準備をする。
これが営業の一次チェックの本質です。
法文を直接いじらない慎重さも重要です。
営業が持っている初期テンプレートを大幅に修正してしまうと、かえって法的リスクが高まる可能性があります。
Claudeの指摘を受けて「この部分は法務に確認が必要」と付箋を貼る感覚で臨むのが正解です。
確実性の担保という点では、AIも完璧ではありません。
だからこそ、営業がチェックすべき事項をちゃんとチェックできているという体裁が取れれば、一次チェックとしては及第点なのです。
6. 契約書タイプ別のチェックポイント
こうしたClaudeとの「壁打ち」は、利用規約以外の契約書でも有効です。
営業が扱う代表的な契約書タイプごとに、Claudeに重点的に確認させるべきポイントを簡潔に解説します。
販売契約書
営業がもっとも気にすべきは責任制限と価格条件です。
責任制限では、無制限責任になっていないか、契約金額に不釣り合いな損害賠償条項がないかを確認します。
間接損害・結果的損害の扱いも重要です。
価格条件では、合計契約金額、個別アイテム価格と数量、誰が何を支払うか(送料、関税、税金、設置費用)を明確にします。
代理店契約書
独占性の範囲とコミッション条件が重要です。
独占権、単独権、非独占権のどれに該当するか。
テリトリーは地理的境界で明確に定義されているか。
コミッションはいつ発生するか(注文時、配送時、支払時)、キャンセルされた注文はどうなるかを確認します。
NDA(秘密保持契約)
一方向か相互か、そして標準除外があるかをチェックします。
機密情報が公開されている情報、開示前に知っていた情報、独立して開発した情報、第三者から正当に入手した情報を除外しているか確認します。
期間は業界標準(初期議論なら1-2年、継続パートナーシップなら2-3年)に沿っているかも見ます。
保守契約書
SLA(サービスレベル保証)の妥当性が焦点です。
可用性目標(99.9%など)、応答時間コミットメント(重大な問題で1-4時間など)、サービスクレジット構造(未達成時の返金条件)を確認します。
7. まとめ:確実性と体裁を整えるツールとして
Claude × 壁打ちで、営業担当者は慎重に確実に体裁を整え、法務担当者や顧問弁護士にバトンを渡すことができます。
重要なのは、時短効果ではなく確実性です。「30分が5分になる」という数値的な効果よりも、「見落としなく、法務に相談すべき観点を整理できる」という質的な価値が本質です。
営業にとって契約書チェックは本来業務外のテクニカルな作業です。
だからこそ、AIを活用して慎重に、確実に進める。Claudeとの壁打ちで法務との会話を予習し、スムーズな引き継ぎを実現する。
それが、営業担当者がClaudeを使う最大の価値なのです。
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