1. AIが読む提案書をAIと磨く時代へ
提案書にAI査定が入る時代へ
提案書は、もはや人だけが読むものではありません。
近年、受験・採用・社内評価の領域では、AIによる一次査定やスコアリングが当たり前になりつつあります。
同じことが、静かに営業提案の世界でも起きています。
入札型の案件や公的プロジェクトだけでなく、民間企業の多くでも「AIによる要件一致度チェック」や「類似提案の自動比較」が導入され始めています。
営業担当者が丹念に作り上げた提案書が、最初に目を通される相手はAIです。
つまり、提案書は「AIが読む→人が感じる」という二段階構造で評価される時代に突入したのです。
人の目とAIの目。その両方を意識した構造設計が、提案の通過率を大きく左右します。
「AIに読まれる」から「AIと磨く」へ
AIが評価に関わることは、Alright読者の営業にとっては、脅威ではなく、むしろ進化のチャンスといえます。
なぜなら、AIが見ているのは「感情」ではなく、「構造」だからです。
構成の一貫性、要件との整合、根拠の明確さ、これらは、AIと人間が共通で重視する再現性のある提案力の核といえます。
本稿では、ChatGPT・Gemini・Claudeという3つの代表的なAIを活用し、一次通過後の提案書をAI査定にも人間審査にも強い構造へと再構築する手法を解説します。
AIに読まれる提案書を設計し、AIと共に仮説を立て、AIの眼差しで人に響く構成へと磨き上げる。
この往復の思考こそが、次世代の営業提案を支える「AI協働」の本質です。
2. AIが評価する提案書の構造を理解する
AIが提案書を読むとき、見ているのは印象ではなく構造です。
どれだけ表現が巧みでも、要件との整合性が取れていなければ、AIは「論理の穴」として検知します。
逆に、文体やデザインが素朴でも、構成が明確で一貫していれば高く評価します。
AIが提案書を評価する際の代表的な観点を整理すると、次の5つに分けられます。
| 評価観点 | 概要 | 高評価(◎) | 中評価(○) | 低評価(△) |
|---|---|---|---|---|
| 整合性 | 提案内容が要件シートや課題定義とどれだけ一致しているか。 | 課題→解決→成果が明確に対応しており、抜け漏れがない。 | 要件は満たすが記述が抽象的、部分的な対応に留まる。 | 論点がずれ、要件や目的と整合していない。 |
| 一貫性 | 構成全体が論理的で、章や段落の流れが自然か。 | 序章〜成果までの流れに矛盾がなく、説得的なストーリーが成立。 | 一部に重複や飛躍が見られるが、全体の意図は伝わる。 | 構成が断片的で、主張の連続性が崩れている。 |
| 根拠性 | 提案が客観的なデータ・事例・指標で裏付けられているか。 | 定量・定性両面の根拠が明示され、再現性が高い。 | 経験則や一般論に依存しており、裏付けが弱い。 | 主観的な表現が多く、根拠が確認できない。 |
| 明瞭性 | 主張や構成が明確で、読み手が要点を掴みやすいか。 | 1文1主張で簡潔。構成や見出しが整理され、理解が容易。 | 文の冗長さや曖昧な語尾が部分的に見られる。 | 論点が混在し、要点が掴めない。 |
| 比較性 | 競合・代替案との差別化が論理的に説明されているか。 | 他社との違いが数値・構造で明確に比較されている。 | 差別化は記述されるが、根拠が定性的に留まる。 | 比較要素がなく、独自性が伝わらない。 |
これらは、いわばAI版の評価ルーブリックです。
人が感情や印象で判断する前に、AIがこうした構造的指標でスコアリングを行い、その結果をもとに「読む価値のある提案」として人間に渡す。
そんな審査の流れが、すでに多くの企業で現実化しています。
それぞれのAIが担う監査の役割
AIの中でも、得意とする評価領域には違いがあります。
提案書の精度を高めるには、それぞれのAIを監査役として使い分けると効果的です。
💡 ChatGPT:構造整合・論理フローの監査
要件と提案内容の一致、各章の整合性、重複・抜け漏れの指摘が得意。
スコアリング用のプロンプトを用いると、採点結果を定量化しやすい。
💡 Claude:多角的視点による説得構造の監査
複数の審査官視点(経営層・現場・技術者等)を同時にシミュレートし、立場ごとの評価を抽出できる。
長文全体の文脈を保持したまま、章間の論理矛盾や審査官が抱く疑問を先回りして検出する。
特に「誰がどの観点で引っかかるか」を事前に把握したい場合に有効。
💡 Gemini:Workspace連携による実行・最適化
Google Workspace(スライド、ドキュメント)上の既存資料とシームレスに連携。
構造化された(前処理済みの)営業資料を、チャットUI上で直接編集・改善できることが最大の強み。
ChatGPT・Claudeが設計した提案構造を、実際のスライドやドキュメントとして具現化する「実行部隊」として機能する。
こうしたAIを組み合わせることで、提案書はAI査定に耐える構造を獲得します。
次のセクションでは、この評価軸を活用し、ChatGPT・Claude・Geminiを連携させた「セルフ監査と最適化」の方法を具体的に見ていきましょう。
3. AIセルフ監査で通る提案書を見極める
1. ChatGPT:構造整合・論理監査の軸
ChatGPTは、提案書の構造そのものを読み解くAI監査官です。
特に「課題→解決→成果」の流れや、要件との整合、一貫性の欠落を見抜く力に優れています。
ただし、その精度はどのように指示するかで大きく変わります。
🧩 ステップ①:まずはシンプルに試したい方向け
最初は、ChatGPTを「提案書の模擬審査官」に設定するところから始めましょう。
以下のプロンプトをコピペして使うだけでも、かなり実践的な評価を得られます。
📌 プロンプト例
あなたは提案書審査を行うAIです。
以下の要件シートと提案書を比較し、次の5観点で評価してください。
1. 整合性(要件と提案内容が一致しているか)
2. 一貫性(構成や論理の流れが自然か)
3. 根拠性(データや事例の裏付けがあるか)
4. 明瞭性(主張が明確で簡潔か)
5. 比較性(他社提案との違いが明確か)
【出力フォーマット】
1. 各項目を10点満点でスコアリング(例:整合性:8/10)
2. 各スコアの理由を具体的に1〜2行で説明
3. 弱点を「構成・表現・根拠」の3カテゴリで整理
4. 改善策を3つのステップで提案(①修正方針 ②書き換え例 ③再評価目安)
要件シート:
(ここに要件を貼り付ける)
提案書:
(ここに提案書を貼り付ける)
この形式なら、構造設計が進んでいなくても、ChatGPTが自動的に構文解析を行い、AI審査官が見ている観点をそのまま模倣してくれます。
💡 ポイント:
評価理由を出させることで、単なるスコアではなく「減点のロジック」を掴むことができます。
これが後の「AI再評価→改善ループ」の基礎になります。
🧠 ステップ②:構造化設計が進んできた方向け(YAML形式)
Dify・API連携などで運用したい場合は、要件・提案・評価軸を構造データ(YAML)として渡すのがおすすめです。
ChatGPTやClaudeだけでなく、GeminiやGASとも連携しやすくなります。
📌 プロンプト例
evaluation_request:
objective: "提案書の構造と要件整合性をAI審査観点で評価"
criteria:
- name: 整合性
description: "要件と提案内容の対応関係"
- name: 一貫性
description: "構成の論理的つながり"
- name: 根拠性
description: "定量的・定性的な裏付けの明確さ"
- name: 明瞭性
description: "表現の簡潔さ・主張の明確さ"
- name: 比較性
description: "他案との差別化と説得力"
materials:
requirement_sheet: |
(要件シートの本文をここに)
proposal_document: |
(提案書本文をここに)
output_format:
- table: "各観点ごとに10点満点でスコアを表示"
- analysis: "理由・根拠・改善提案をJSON配列で出力"
- summary: "総合コメントと優先改善ポイントを3つ提示"
📘 日本語訳のポイント
| YAML項目 | 意味 |
|---|---|
objective | 評価の目的(審査観点の明確化) |
criteria | 評価項目(AIが注目すべき5つの軸) |
materials | 評価対象の本文(要件・提案) |
output_format | 出力形式の指定(表・分析・要約) |
💡 この形式の利点:
- Dify・ZapierなどのAPI連携でも安定出力
- ChatGPTの「構造理解力」を最大限に活かせる
- ClaudeやGeminiへの転用(criteriaだけ共通化)も容易
たとえばDifyなら、このYAMLをJSONに変換して変数にマッピングすれば、評価ワークフローを自動で回せます。
つまり、「提案書をAIに渡すだけで、スコア・根拠・改善提案まで一括取得」が可能になるのです。
💬 応用ポイント:ChatGPTのセルフ再評価を回す
ChatGPTの優れている点は、同一会話内で自己参照ができることです。
1回目の評価結果を貼り付けて、こう指示します。
この前回評価をもとに、提案書を再評価してください。
改善箇所が修正されているかを各項目10点満点で再採点し、前回とのスコア変化を示してください。
これで、「AI監査→修正→再監査」というループを一人のAIでシームレスに回せます。
要件変更や追加資料にも即座に対応できる点は、人間のレビューサイクルにはない強みです。
2. Claude:多角的視点による説得構造の監査
Claudeは、ChatGPTが得意とする「論理構造の整合性」を異なる角度から補完します。
特に優れているのは、複数の読み手視点を切り替えながら提案書全体を評価する能力です。
提案書を人が読む際、審査官によって注目するポイントは異なります。
経営層は投資対効果を、現場責任者は実現可能性を、技術担当者は詳細仕様を重視します。
Claudeはこうした多層的な読み手視点を同時にシミュレートし、それぞれの立場から見た提案の説得力を評価できます。
さらに、長文の提案書においても全体の文脈を保持したまま細部を評価できるため、章をまたいだ論理の矛盾や、前提と結論のずれを見逃しません。
🧩 ステップ①:まずはシンプルに試したい方向け
Claudeは「多重ロール評価」を与えると特に効果的に動作します。
一度のプロンプトで複数の審査官視点を持たせ、提案書の多面的な説得構造を評価させましょう。
📌 プロンプト例
あなたは提案書審査を行う3名の審査官です。
以下の提案書を、それぞれの立場から評価してください。
【審査官A:経営層】
- 投資対効果と戦略整合性を重視
- 数値根拠とリスク対策の明確さを評価
【審査官B:現場責任者】
- 実現可能性と運用負荷を重視
- 具体的な実施手順とリソース計画を評価
【審査官C:技術担当者】
- 技術的妥当性と詳細仕様を重視
- システム要件と既存環境との整合性を評価
【出力フォーマット】
各審査官ごとに:
1. 総合評価(10点満点)
2. 評価理由(2〜3文)
3. この立場から見た最大の懸念点
4. 説得力を高めるための具体的改善提案
最後に:
5. 3名の評価を統合した総評
6. 優先的に対処すべき弱点(上位3つ)
提案書:
(ここに提案書本文を貼り付け)
💡 ポイント:
この方法の利点は、審査プロセスの予行演習ができることです。
実際の審査では複数の立場の人が異なる観点で評価しますが、事前にその全視点からの評価を得ることで、提案の死角を大幅に減らせます。
🧠 ステップ②:構造化設計が進んできた方向け(YAML形式)
DifyやAPIで活用する場合は、評価軸とロールを構造化して渡すことで、提案書の評価をワークフロー化できます。
📌 プロンプト例
multi_perspective_evaluation:
objective: "提案書を複数の審査官視点から多角的に評価"
evaluator_roles:
- role: 経営層
focus_areas:
- 投資対効果
- 戦略整合性
- リスク管理
evaluation_weight: 40%
- role: 現場責任者
focus_areas:
- 実現可能性
- 運用負荷
- リソース計画
evaluation_weight: 35%
- role: 技術担当者
focus_areas:
- 技術的妥当性
- システム要件
- 既存環境整合性
evaluation_weight: 25%
materials:
proposal_document: |
(提案書本文をここに)
requirement_sheet: |
(要件シートをここに)
output_format:
- role_based_scores: "各ロール別の10点満点評価"
- concern_analysis: "各ロールから見た懸念点リスト"
- improvement_suggestions: "立場別の改善提案(優先度付き)"
- integrated_assessment: "総合評価と重点改善項目"
📘 日本語訳のポイント
| YAML項目 | 意味 |
|---|---|
objective | 評価目的(多角的視点の統合) |
evaluator_roles | 評価者の立場と重視点 |
focus_areas | 各ロールが注目する評価領域 |
evaluation_weight | 最終判断における各ロールの影響度(任意設定可) |
output_format | 構造化された出力形式 |
💡 この形式の利点:
- 審査委員会のシミュレーションが可能
- 各ロールの重要度を案件特性に応じて調整できる
- ChatGPTの論理監査、Geminiの業界監査と組み合わせて三次元評価を実現
- プロジェクトファイル(ガイドライン・過去事例等)を参照しながらの一貫評価も可能
💬 応用ポイント①:審査官の「疑問」を先回りする
Claudeの優れた点は、審査官が抱くであろう疑問を具体的に言語化できることです。
初回評価後、以下のようなフォローアップを行うことで、提案書の盲点を徹底的に潰せます。
前回の評価で「懸念点」として挙げられた項目について、審査官がさらに抱くであろう質問を5つ予測してください。
各質問に対して:
1. なぜこの質問が生まれるのか(提案書の記述不足箇所)
2. 効果的な回答例
3. 提案書に追記すべき箇所と文例
を提示してください。
これにより、質疑応答フェーズの予行演習も同時に行えます。
💬 応用ポイント②:語調の段階的調整
Claudeは同じ内容でも複数の語調パターンを提示できます。
提案先の企業文化や審査官の属性に応じて、最適なトーンを選択できます。
以下の提案文について、3つの語調バージョンを作成してください。
【元の文】
(提案書の一部を貼り付け)
【求めるバージョン】
1. 保守的・堅実型(リスク回避を重視する企業向け)
2. 革新的・挑戦型(変革を求める企業向け)
3. データ重視型(定量評価を重視する企業向け)
各バージョンについて、どの要素を調整したかを簡潔に説明してください。
この方法により、同じ提案内容でも相手に応じた最適な伝え方を選択できます。
3. Gemini:Workspace連携による即時実行と最適化
Geminiは、ChatGPT(構造監査)やClaude(多角的視点監査)とは異なり、監査(分析)と実行(作成・編集)をシームレスに繋げる役割を担います。
特に、営業担当者が使い慣れたGoogle Workspace(スライドやドキュメント)と緊密に連携し、チャットUIでの指示を通じて、前処理済みの提案資料をリアルタイムで直接書き換えることができるのが最大の強みです。
ChatGPT・Claudeが設計した「提案の構造」を、具体的なアウトプット(スライドの1枚)として即座に具現化する「実行部隊」として機能します。
🧩 ステップ①:既存スライドの即時書き換え(シンプル)
Geminiの真価は、具体的な資料をその場で改善できる点にあります。
すでに前処理(構造化)を終え、Googleスライドとして保存されている提案書を直接指定し、チャットUI上で改善を指示します。
📌 プロンプト例
あなたはプロの営業コンサルタントです。
今開いている提案スライド([ファイル名 "〇〇様向け提案書.gslide" の5ページ目])を見てください。
この「導入効果」のスライドは、顧客(経営層向け)への訴求が弱いと感じています。
以下の観点で、スライドのテキストと構成案を具体的に書き換えてください。
【改善観点】
1. 結論ファーストな構成に変更
2. 「コスト削減」よりも「売上向上へのインパクト」を強調
3. 専門用語を避け、経営層に響く言葉(例:投資対効果、事業継続性)へ置き換え
【出力フォーマット】
1. 修正後のタイトル案
2. 修正後の本文(箇条書き)
3. この内容を補強するグラフや図解のアイデア
💡 ポイント:
このように、開いているファイルや特定のページを指定して「ゴリゴリ書き換え」を指示できるのがGemini(Workspace連携)の強みです。
外部の業界トレンド(Google検索)を参照させつつ、具体的なスライドコピーに落とし込む作業を一気通貫で行えます。
🧠 ステップ②:複数資料の横断と新規スライドの生成(構造化)
Geminiは、Workspace内の複数の前処理済み資料(例:過去の類似案件データシート、製品マスタ)を横断的に参照し、新しい提案要素を生成することも得意です。
📌 プロンプト例
execution_request:
objective: "特定顧客向けのカスタマイズスライド(競合比較)を新規作成"
target_slide_deck: "[ファイル名 "〇〇様向け提案書.gslide"]"
insert_after_page: 7 # 7ページ目の後に挿入
reference_materials: # 参照する前処理済みデータ
- type: "Google Sheet"
name: "[製品機能マスタ_2025.gsheet]"
description: "自社・競合の機能比較表"
- type: "Google Doc"
name: "[顧客ヒアリングメモ_〇〇様.gdoc]"
description: "顧客が特に重視するポイント(速度・コスト)"
task:
1: "reference_materials を参照"
2: "顧客(〇〇様)が重視する『速度』と『コスト』の観点で、競合A社・B社に対する自社製品の優位性を整理"
3: "target_slide_deck のデザインに沿った形で、比較表スライドを1枚作成"
4. "スライドのタイトルは『〇〇様が重視するポイント別 競合優位性』とする"
output_format:
- "スライドに挿入するテキスト(タイトル、表の内容)を生成"
- "(可能であれば)UI上でスライドのプレビューを提示"
📘 日本語訳のポイント
| 項目 | 意味 |
|---|---|
objective | 実行タスクの目的(スライドの新規作成) |
target_slide_deck | 操作対象のファイル(スライド) |
reference_materials | 前処理済みで参照すべきWorkspace内の別ファイル |
task | 実行すべき具体的な手順(参照→分析→作成) |
💡 利点:
- ChatGPTやClaudeが設計した「提案の構造」に基づき、Geminiが実際の営業資料(スライド)として具現化する、という役割分担が明確になります。
- 前処理されたデータを「参照元」として明示的に指定することで、AIの作業精度を高め、具体的なアウトプット(スライド)を直接生成・編集できます。
- これこそが、「本UI上でゴリゴリスライドを書き換えられる」という最大の強みです。
💬 応用ポイント:プレゼン本番に向けた「壁打ち」
Geminiは、作成したスライドをベースに、プレゼン本番のシミュレーション(壁打ち)にも活用できます。
今しがた作成してもらった「競合優位性」のスライド(8ページ目)について、顧客の技術担当者から来そうな「厳しいツッコミ(質問)」を3つ予測してください。
それぞれに対して、簡潔かつ明確な回答例も用意してください。
回答の根拠として、[製品機能マスタ_2025.gsheet] のデータを参照してください。
このように、「作成(Edit)」と「監査(Audit)」のサイクルを、Workspace上の実データと連携しながら高速で回せる点が、Geminiの最大の特徴です。
4. 情報が乏しいフェーズでAIを仮説装置として使う
提案一次通過後、営業担当者の手元からは一気に情報が減ります。
詳細な要件定義は伏せられ、手がかりとして残るのはプレゼン順、持ち時間、担当者名といった断片的な情報だけ。
しかし、ここで思考を止めてしまうと、提案の精度も一緒に止まります。
この情報の空白地帯を埋めるためにこそ、AIの推論力と仮説構築力を使うべきです。
AIは与えられたデータが少なくても、「文脈」「過去傾向」「外部要因」を掛け合わせ、あり得る前提を推定して仮説を立てる力を持っています。
特に、Gemini・ChatGPT・Claudeを事実→構造→検証の順で組み合わせると、限られた材料からでも「何を、どう深掘りすべきか」を段階的に導き出せます。
AIが扱える素材を3カテゴリで整理する
AIを仮説装置として使うには、まず餌となる情報を3つのカテゴリに分けて渡すのが効果的です。
それぞれの役割を明確にしておくことで、AIが文脈を誤解せずに推論できる精度が高まります。
| 資料カテゴリ | 例 | AI活用の目的 |
|---|---|---|
| 顧客・業界背景 | IR資料、決算発表、プレスリリース、ニュース | 「企業が今重視しているテーマ」と提案内容の整合を確認(PEST/3C分析) |
| 過去接触・議事録 | メール、議事録、担当者コメント | 担当者の意図・課題意識をSPIN/SBIで再構成 |
| 想定競合情報 | 同業3社、プレゼン順序、価格帯 | SWOT/TOWSで競合との構造的差を整理 |
💡 AIを仮説装置として使う3ステップ
AIをこのフェーズで使いこなすポイントは、情報を補うのではなく、思考を補強すること。
以下の3ステップで、AIを「自分の仮説を磨く相棒」に変えましょう。
🧩 ステップ①:Geminiで「事実ベースの仮説」を構築する
このフェーズでのGeminiの役割は、Workspace(ドライブ)内の内部データ(事実)とGoogle検索による外部データ(文脈)を接続し、仮説の「土台」を築くことです。
営業担当者が持つ断片的な情報(担当者名、過去の案件名)をもとに、Geminiはドライブ内の前処理済みデータ(過去の議事録、ヒアリングシート、メール履歴)を検索・参照します。
重要なのは、単に情報を集めるだけでなく、分析フレームワーク(3C分析やSPINモデル)の視点を用いて、これらの内部データを再解釈することです。
これにより、以降のLLMにもつながる、解像度の高い仮説を構築します。
📌 プロンプト例
あなたは業界アナリスト兼、当社の営業コンサルタントです。
本プレゼン(テーマ:◯◯)に向けて、仮説を構築します。
1. [Googleドライブ内の "XX様 議事録フォルダ"] および [過去のメール履歴] を参照し、担当者A様の過去の発言(課題意識、懸念点)を時系列で整理してください。
2. 以下の【外部データ】と上記1.の【内部データ】を組み合わせ、顧客の現状を「3C分析(Customer, Competitor, Company)」のフレームワークで整理してください。
- Customer(顧客の課題): 1.で得られた発言と、最新の業界ニュースを紐づける
- Competitor(競合): プレゼン順序(B社→当社→C社)を踏まえ、B社が提示しそうなロジックを予測
- Company(自社): 1.で得られた懸念点に対し、自社が提供できる価値(未伝達のもの)
【外部データ】
- 顧客企業の直近のIR情報(Google検索)
- 競合B社、C社の最新プレスリリース(Google検索)
【出力フォーマット】
- 3C分析に基づいた、本プレゼンで突くべき「最重要仮説(課題)」
- その仮説を裏付ける「内部事実(担当者の過去発言)」と「外部文脈(市場トレンド)」
💡 ポイント:
Geminiの強みは、Workspace内の「一次情報(議事録など)」にアクセスできる点です。
「外部トレンド」と「内部の事実」をフレームワーク(3C, SPIN)で掛け合わせることで、単なる推測ではない、事実ベースの仮説(=ステップ②でChatGPTが構造化する素材)を構築します。
🧠 ステップ②:ChatGPTで「仮説の論理骨子」に再構成する
ChatGPTは、Geminiが構築した事実ベースの仮説(素材)を、プレゼン本番で通用する論理の骨格に再構成する役割を担います。
ステップ①で得た分析結果(3CやSPIN)はまだ断片的です。
ChatGPTは、それらの要素を「課題→原因→解決→成果」という一貫したストーリーに整えます。
📌 プロンプト例
以下の【Geminiによる分析結果】をもとに、プレゼン(持ち時間15分)の核となる「論理骨子」を作成してください。
【Geminiによる分析結果】
(ステップ①で出力された「3C分析」や「SPINの各要素」を貼り付け)
【出力フォーマット】
プレゼンの構成案として、以下の流れで再構成してください。
1. 掴み(顧客の最重要課題の再確認 ※3CのCustomer部分)
2. 課題の深掘り(なぜその課題が起きているか? ※Geminiの分析結果を引用)
3. 解決策の提示(競合との違いを明確に ※3CのCompetitor/Company部分)
4. 期待される成果(顧客の言葉(過去発言)を引用し、ベネフィットを提示)
この出力をベースに、AIの推論過程=仮説の透明性をチームで共有できるのも大きな利点です。
🪶 ステップ③:Claudeで「仮説の通用範囲」を多角的に検証する
Claudeは、ChatGPTで構成した仮説を、複数の審査官視点で徹底的に試す役割を担います。
仮説が正しいかどうかではなく、「誰の立場から見ると、どこに違和感が生まれるか」を具体的に言語化することで、提案の盲点を事前に発見できます。
特に情報が乏しいフェーズでは、仮説の脆弱性を早期に発見し、補強すべきポイントを明確にすることが重要です。
Claudeは、限られた情報から複数の読み手シナリオを生成し、それぞれの立場で「引っかかりそうなポイント」を先回りして検出できます。
📌 プロンプト例(基本版)
あなたは提案書の審査を行う3名の審査官です。
以下の仮説構成について、それぞれの立場から評価してください。
【仮説構成】
(ChatGPTで整理したSPINモデルの構成を貼り付け)
【審査官A:経営層】
- 投資判断の観点から、この仮説のどこに納得感があり、どこに疑問を感じるか
- 特に「N(期待効果)」部分の説得力を評価
【審査官B:現場責任者】
- 実行可能性の観点から、この仮説のどこに共感し、どこに抵抗を感じるか
- 特に「P(問題)→I(影響)」の因果関係の妥当性を評価
【審査官C:技術担当者】
- 技術的実現性の観点から、この仮説のどこが具体的で、どこが曖昧か
- 特に「S(現状)」の前提認識に誤りがないかを評価
【出力フォーマット】
各審査官ごとに:
1. 共感するポイント(最も納得できる部分)
2. 疑問・抵抗を感じるポイント(具体的にどこが引っかかるか)
3. この立場から見て補強すべき情報(何があれば納得度が上がるか)
最後に:
4. 3つの視点を統合した「仮説の脆弱ポイント」(上位3つ)
5. 優先的に補強すべき情報・データの種類
💡 ポイント:
このアプローチにより、仮説の「通用する範囲」と「通用しない範囲」が明確になります。
すべての審査官を納得させる必要はありませんが、「誰がどこで躓くか」を知っておくことで、本番での質疑対応の準備ができます。
仮説の脆弱性をさらに深掘りしたい場合は、以下のような「反証シミュレーション」が有効です。
📌 プロンプト例
前回評価で指摘された「仮説の脆弱ポイント」について、
それぞれの審査官が本番プレゼンで投げかけそうな「厳しい質問」を3つずつ予測してください。
各質問について:
1. なぜこの質問が生まれるのか(仮説のどの部分が引き金になるか)
2. この質問に対する効果的な回答の方向性
3. 回答を補強するために追加で調べるべき情報
【注意点】
- 質問は「悪意のあるツッコミ」ではなく、「審査官が納得するために必要な確認」として設定
- 回答は防御的ではなく、前向きな対話につながる内容を重視
💡 ポイント:
質疑応答は「守り」ではなく「仮説を補強する機会」です。
Claudeに想定問答を生成させることで、情報が足りない部分をピンポイントで発見し、追加調査の優先順位を付けられます。
💬 応用ポイント①:「情報の欠落」を明示化する
情報が乏しいフェーズでは、「何が分かっていて、何が分かっていないか」を明確にすることが重要です。
Claudeに以下のような整理を依頼すると、チーム内での認識合わせがスムーズになります。
📌 プロンプト例
以下の仮説構成について、各段階(S→P→I→N)ごとに:
1. 【確実な情報】:客観的データや確認済みの事実で裏付けられている部分
2. 【推論情報】:論理的推測で補っている部分(仮説)
3. 【欠落情報】:判断するために本来必要だが、現時点で不足している情報
を分類してください。
さらに、「欠落情報」については:
- 入手可能性(入手できる/難しい/不可能)
- 優先度(高/中/低)
- 代替アプローチ(入手できない場合の対処法)
を評価してください。
💡 利点:
- チーム内で「どこまでが確定で、どこからが仮説か」の共通認識を持てる
- 限られたリソースで追加調査すべき項目を絞り込める
- 「分からないこと」を前提とした柔軟な提案設計ができる
💬 応用ポイント②:シナリオ分岐の設計
情報が不足している場合、「Aパターン」「Bパターン」と複数シナリオを準備しておくことが有効です。
Claudeに以下のような依頼をすることで、状況に応じた提案の「引き出し」を増やせます。
📌 プロンプト例
以下の仮説について、審査官の反応パターンを3つ想定してください:
【パターン1:好意的】
- 審査官が仮説に共感し、前向きに検討している場合
- この場合の最適な展開方法(どこを深掘りすべきか)
【パターン2:懐疑的】
- 審査官が仮説に疑問を持ち、根拠を求めている場合
- この場合の対応方針(どのデータを提示すべきか)
【パターン3:競合比較】
- 審査官が競合との比較を重視している場合
- この場合の差別化ポイント(どこを強調すべきか)
それぞれのパターンに対して、プレゼン本番で使える「切り返しフレーズ」を3つずつ提案してください。
💡 利点:
- 本番での柔軟な対応力が身につく
- 「相手の反応を見てから判断」ではなく、事前に準備できる
- チーム内で「もし〇〇だったら△△」というシミュレーションができる
🚀 情報が少なくても戦略の厚みは作れる
営業現場で直面するのは、情報量の不足ではなく、推論を止めてしまうことです。
Geminiで事実と文脈を接続し、ChatGPTで論理骨子に再構成し、Claudeで多角的に検証する。
特にClaudeによる「誰がどこで躓くか」の事前検証は、情報が乏しいフェーズでこそ威力を発揮します。
限られた情報から複数の読み手シナリオを生成し、仮説の脆弱性を先回りして補強することで、「根拠のある仮説」としての提案を練り上げることができます。
AIを発想支援者として使うとは、情報を増やすことではなく、情報の意味を再構築し、その妥当性を多角的に検証することなのです。
5. AIに読まれ、AIと磨く提案構造の完成へ
提案書は、もはや「提出して終わり」の書類ではありません。
AIが最初に読み、人が最終判断する、この二段構造の中で、営業担当者は構造を設計する提案者としての新しい役割を担うようになりました。
ChatGPTで論理を整え、Geminiで事実と文脈を接続し、Claudeで読み手の視点から検証する。
この三者を組み合わせることで、提案書は単なる文書ではなく、AIが理解し、人が納得する再現知へと進化します。
AIに読まれ、AIと磨くことは、あなたの思考を可視化し、チーム全体で共有できる構造に変えるということ。
それは営業提案という営みを、属人的な経験から再現可能な知識体系へと変えていく第一歩です。
💬 最終チェック
以下のチェックリストを、あなたの提案プロセスに当てはめて確認してみてください。
- ☐ ChatGPTで要件シートと提案書を比較し、構造・整合性・根拠性をスコア化したか?
- ☐ Claudeで経営層・現場・技術担当者など複数視点から説得構造を監査したか?
- ☐ Geminiで業界ニュースやIR情報を参照し、提案の背景仮説を補強したか?
- ☐ 3C/SPINなどのフレームワークを活用し、仮説構成を論理的に再整理したか?
- ☐ 修正後の提案書をAIに再評価させ、スコアや懸念点の変化を確認したか?
これらが揃えば、あなたのチームはすでに「AIと共に思考を磨き、提案の精度を高める営業組織」へと進化しています。
🧩 3秒まとめ
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 思想 | 提案書は、読まれる前に評価される。AIの目線で構造を整え、人の心で伝える時代へ。 |
| 実務 | ChatGPTで構造を整え、Geminiで背景を補強し、Claudeで説得力を磨く。 |
| 行動 | まずは一次提案の再評価から。「AI監査→改善→再評価」のループを一度回してみよう。 |
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