1. 評価面談を「数字の通知」から「次の一歩の設計」へ
営業の評価面談、つい「去年と同じシートを読み上げて終わり…」なんて経験ありませんか?
数字の確認だけで終わってしまうと、本人にとっては通知を受けただけで終わり、次にどう動けばいいのかが見えづらくなります。
本来の面談は、「結果を振り返る場」ではなく「次の成長の出発点」。
そのために役立つのが今回紹介するフレームワークです。
OKR・MBO・KPI設計を主役に、補助的に9-Boxを使う流れを解説します。
さらにAIをうまく組み込めば、評価シートの整理・数値の可視化・コメントの言い換えといった「面倒だけど大事な下ごしらえ」を一気に肩代わりしてもらえます。
「評価されるだけ」から「次の一歩が決まる面談」へ。
そんな変化を意識しながら読み進めてみてください。
2. OKR:チーム連動型の目標を描く
OKRとは?
まず簡単におさらいすると、OKR(Objectives and Key Results)は「大きな目的(O)」と、それを実現するための「測れる成果指標(KR)」をセットにした目標管理のフレームワークです。
特徴は、「少し背伸びしたチャレンジを数字で追える」こと。
単なるToDoリストではなく、組織全体で「ストレッチして同じ方向を向いている感覚」をつくれるのが強みです。
面談でありがちなすれ違い
評価面談でありがちなのが、「個人目標」と「会社全体の方向性」がずれてしまうケースです。
本人は「頑張っているつもり」でも、上長からすると「組織にどう貢献しているのかが見えにくい」…
そんなすれ違いが起こりやすいんですね。
IT・SaaS営業のケース
例えばSaaSの直販チームなら、商談化率・成約率・オンボード完了率など、部門を横断して改善すべき指標が多い。
ここでは「チーム全体で押し上げるKR(主要結果)」を設定し、個人OKRをその一部に噛み合わせるのが大切です。
代理店(パートナー)営業のケース
一方、代理店との連携を重視する営業では、パートナー側の活動量や案件化数もKRに含めるのが自然です。
つまり、相手のKPI体系に寄り添ったOKRにすることで、「うちの都合だけの目標」にならず協働が進みます。
面談での使い方
面談では、個人のOKRを「チームやパートナーのKRとどうつながるか」を一緒に確認します。
単なる数字目標ではなく、組織全体のストーリーの一部になっているかを意識できると、本人の納得感も上がります。
AI活用アイデア
OKRづくりは意外と時間がかかる作業です。
AIに前期の数字や成功・失敗の要因メモを渡すと、OKRのドラフトを10分ほどで出してくれます。
そこから上長と一緒に手直しをすれば、ゼロから考えるよりもずっと楽になります。
📌 簡単なプロンプト例
あなたは営業マネージャーの参謀です。
以下の実績と要因を整理し、IT・SaaS営業チームのOKR(目的1つ+KR3つ)を提案してください。
KRは測定可能で、次の3か月で動かせる指標に限定してください。
【実績】
・商談化率:24%(目標30%)
・成約率:17%(目標20%)
・オンボ完了率:58%(目標70%)
【要因】
・製造業向け案件は勝率が高い
・初回デモの参加率が低く失注が増加
3. MBO:業界特性に合わせて期間と重みを調整する
MBOとは?
MBO(Management by Objectives)は、「個人の目標を会社の成果に結びつける」ためのフレームワークです。
ゴールはシンプルで、「上司と部下が合意した目標に向かって進み、その達成度を評価につなげる」こと。
評価面談で「何をどう評価するのか」がブレにくいのが強みです。
面談でありがちなすれ違い
ありがちなのが、目標のスパンが合っていないこと。
- 四半期で成果を出さなきゃいけないのに、1年かかる目標を立ててしまう
- 逆に、長期的にじっくり取り組むべきなのに「今月の数字」にばかり寄ってしまう
結果として、面談が「短期数字の突っ込み」か「夢物語」で終わりがちです。
業界ごとのMBOの使い方
- IT・SaaS/広告・人材など短期志向の業界→四半期単位で「成果(売上)+活動量(商談数)+再現化(提案書や事例化)」を組み合わせる。
- 製造業・インフラなど長期志向の業界→半期〜年単位で「大口案件の進捗」「マイルストーン達成(仕様確定、サンプル出荷)」などを評価軸に。
- 不動産営業→案件ごとの進捗や媒介契約件数、顧客紹介数など、動きが見えるKPIをMBO化しやすい。
- 小売・EC→客単価やリピート購入率など、売上に直結する数字を設定。短期的にも効果が見える。
面談での使い方
MBOのシートを「次期の仕様書」としてその場で完成させるイメージです。
事前に本人が自己評価を書き、上司がコメントを追記しておけば、面談の場ではすり合わせと次期案の確定だけに集中できます。
「振り返りで終わる」面談から、「次の動きが決まる」面談に切り替わります。
AI活用アイデア
自己評価コメントは、どうしても主観が強かったり、表現がきつすぎたりするもの。
AIにかければ、事実は数字ベースに残しつつ、表現は「中立で建設的」に整えることができます。
出力された文章をベースにすれば、本人も「納得感がある」、上司も「言葉選びに悩まなくていい」状態になります。
📌 簡単なプロンプト例
以下のMBO自己評価を、人事に提出できる「中立で建設的」な文章に書き直してください。
・事実は数値ベースで残す
・批判は代替案とセットに
・300〜400字程度で
【原文】
・アポ件数は達成したが、質が悪く成約に至らなかった。
・資料準備が遅く、顧客からの信頼を損ねた。
4. KPI設計:評価を測れる行動に落とす
KPIとは?
KPI(Key Performance Indicator)は、「成果につながる途中の行動や数値」を測る指標です。
「売上を伸ばせ!」だけだと抽象的すぎるので、何をどれくらいやれば成果に近づくのかを分解して確認するのがKPI設計の役割です。
面談でありがちなすれ違い
ありがちなのは「数字は見えるけど、次に何を直せばいいのか分からない」という状態。
売上・契約数・商談数は出せても、「結局どこを改善すればいい?」が曖昧だと、面談後のアクションがぼやけてしまいます。
業界ごとのKPIの切り口
- IT・SaaS→解約率・オンボード完了率・プロダクト活用率など、継続利用を左右する数字が肝。
- 製造業→粗利率、見積段階の利益確定条件、リピート率など、利益を守る指標が大切。
- 不動産→媒介契約件数、契約化率、顧客紹介率など、案件の流れを可視化する数字が効果的。
- 小売・EC→客単価、リピート購入率、定期購入比率など、LTV(顧客生涯価値)に直結する指標。
面談での使い方
面談では、KPIツリーを一緒に描くとシンプルです。
「売上」→「商談数 × 成約率 × 客単価」などに分解し、どこが一番ボトルネックになっているかを一緒に探します。
全部改善するのは無理なので、1箇所だけに絞って2週間の実験を決めるのが成功のコツです。
AI活用アイデア
スプレッドシートやCRMのログをAIに渡せば、対前期/対前年比の差分を一瞬で出してくれます。
「どこが落ちているか」「どのKPIをいじると一番効きそうか」を教えてくれるので、面談の時間は次のアクションを考えることに集中できます。
出力結果を叩き台にすれば、「商談数を増やすのか」「成約率を改善するのか」といった議論がすぐに始められます。
📌 簡単なプロンプト例
以下の四半期データから、
(1) KPIツリーのどこが落ちているか
(2) 改善候補を3つ
(3) 2週間で試せる実験案
を提案してください。
【データ】
商談数:120件(前期150件)
成約率:18%(前期20%)
平均客単価:14万円(前期13万円)
5. 9-Box:現在地を30秒で共有する地図
9-Boxとは?
9-Boxは、「成果(パフォーマンス)」×「将来性(ポテンシャル)」の2軸で人材をマトリクスに整理するシンプルなフレームです。
縦横3×3のマスに配置することで、「いまどの位置にいるのか」をひと目で共有できます。
面談でありがちなすれ違い
面談中に部下から「結局、自分はどんな立ち位置なんですか?」と聞かれて、うまく説明できないことってありませんか?
9-Boxはそんなときに、地図のように今の座標を示せるツールになります。
面談での使い方
- 面談冒頭に30秒だけ位置合わせをする感覚で使う。→「成果は高いけど、経験の幅はまだ狭い → ハイパフォーマー候補」
- そのあと「次の四半期はどんな経験を積むか」に話を移す。→ラージ案件のサブ担当を入れてみる、代理店対応を経験する…など。
ここで大事なのは、レッテル貼りではなく「処方箋」にすること。
「君はここだからダメ」ではなく、「ここにいるからこそ、次はこの経験が必要」と伝えると、本人も前向きになれます。
注意点
9-Boxをそのまま人事評価の軸にすると「格付け感」が強まりすぎて逆効果。
評価制度に組み込むのではなく、あくまで面談をスムーズにする会話補助ツールくらいの扱いで十分です。
6. 評価面談を「納得感+次の一歩」に変えるためのフレームワークとAI活用
営業の評価面談は、ただ「結果を通知する場」だと味気なく終わってしまいます。
でも、OKR・MBO・KPI・9-Boxといったフレームワークをうまく組み合わせれば、「納得感があり、次の行動が決まる場」に変わります。
本記事のポイントをおさらい
- OKR:個人の目標をチームやパートナーのKRにしっかり噛み合わせる
- MBO:業界特性に合わせた期間・重みで、次期の「仕様書」として面談中に完成させる
- KPI設計:KPIツリーを描いて1箇所だけ改善ターゲットを決め、2週間実験を設計する
- 9-Box:冒頭30秒で立ち位置を示し、そこから「次の経験」を考えるきっかけにする
- AI:数値整理・差分可視化・コメントの言い換えなど、下ごしらえ担当としてフル活用
チェックリスト(面談前に確認)
- ☐ 個人OKRはチームKRとつながっているか
- ☐ MBOシートは「次期案」まで面談中に仕上げられるか
- ☐ KPI改善ポイントは1箇所に絞れているか
- ☐ 9-Boxで現在地を簡単に共有できているか
- ☐ AIを事前準備に使って、面談では議論に集中できる状態になっているか
評価面談を「数字を渡すだけの儀式」から「次の成長の設計図を一緒につくる場」へ。
ほんの少しフレームワークとAIを取り入れるだけで、会話の質も現場の行動も大きく変わっていきます。